
相談の中で、ちょいちょい出てくる話があります。
「親の土地に家を建てたんですが、最近親が亡くなって兄弟と揉めていて…」
この話、聞くたびに「もっと早く知っていてくれれば」と思います。
「親の土地に家を建てる」というのは、新潟でも珍しくない話です。
「土地代がかからない分、建物にお金をかけられる」
「実家の近くに住める」
メリットが見えやすい選択です。
でも「どんな形で土地を借りているか」によって、何十年後かに話が全然変わってきます。
今回は「使用貸借」と「借地契約(賃貸借)」の違いを、架空のケースを通して説明します。
「知らなかった」で後悔しないために。
まず「使用貸借」と「借地(賃貸借)」の違いを理解する
難しい言葉が出てきますが、本質はシンプルです。
使用貸借:タダで土地を借りること。親が子どもに「うちの土地にタダで家を建てていいよ」と言う場合がほぼ全てこれです。契約書がない・地代を払っていないケースの大半が「使用貸借」です。
借地権(借地・賃貸借):地代を払って土地を借りること。「毎月〇万円を地代として払う」という形で土地を借り、建物を建てる場合です。借地借家法が適用されます。
この2つの違いは「地代を払っているかどうか」のシンプルな話ですが、法的な保護の強さが全く違います。
使用貸借とは無償でモノを借り貸しする契約で、借地借家法の適用を受けず、民法の規定が適用されます。
借地権のように権利を相続することができません。
使用貸借・借地権・賃貸借のうち、借主の立場が最も弱いのは対価を支払う必要のない「使用貸借」となります。
返還時期などの定めを取り決めていない場合、借主は貸主から返還請求があれば原則として返還しなければいけません。
「タダで借りているから立場が弱い」これが全ての問題の出発点です。

ケース① 使用貸借でトラブルになったAさんの話
背景
Aさん(58歳)は30年前、父親の土地に自宅を建てました。
「うちの土地を使っていいよ」と父親に言われ、地代も払わず・契約書も作らず家を建てて、以来30年間そこに住んできました。
子どもも独立して、夫婦2人の静かな生活。
建物は老朽化してきたけれど、「もう少し住んだらリノベーションしようか」と考えていました。
5年前、父親が亡くなりました。
問題の始まり
父親の遺産は「Aさんが家を建てた土地」「実家の土地・建物」の2つが中心でした。
Aさんには兄(62歳)がいます。
遺言がなかったため、兄弟で遺産分割の話し合いが必要になりました。
兄の言い分はこうでした。
「実家と土地は俺が相続する。お前が建てた土地は、もともとタダで使わせてもらっていたんだから、俺が相続したら返してもらう」
Aさんは「30年住んでいるのに今さら返せとは何事だ」と思いましたが、法律的にどうなるかを調べてみると・・・。
法律の現実
使用貸借契約は原則として相続されず、契約当事者の死亡により終了する可能性が高い。
使用貸借で土地を借りていた場合、「貸していた親(父)が亡くなって、土地を相続したのが第三者(兄)になった場合」でも、使用貸借は継続するという判例があります。ただし「兄が土地を相続してAさんが借主」という構図になった場合、兄が「返せ」と言えるかどうかは、契約の内容(目的・期間の定め)によります。
問題は「契約書がない・口約束だけ」という状態で、「何のために・いつまで貸すか」が明確でないことでした。
「住むためにずっと使っていい」という父親の言葉は、法的に証明できません。
「建物を建てて住むという目的のための使用」が認められる間は継続するという解釈があります。
でも兄が「建物を壊して更地にして返せ」という主張をした場合、法的な争いになります。
使用貸借は無償契約で権利保護が弱く、借主の立場はきわめて弱い。
末路
Aさんと兄の話し合いは1年以上続き、最終的に「Aさんが土地を兄から買い取る」という解決策になりました。
土地の価格は2,000万円。
30年前に「タダで土地を借りて建物を建てた」ことが、老後に2,000万円の支払いとして返ってきました。
幸いAさんには貯蓄があったので何とかなりましたが、「もし買い取れなかったら」と考えると背筋が冷えます。
ケース② 「借主が死亡」で建物が消えたBさんの話
背景
Bさんの夫(故人)は20年前、義父の土地に夫婦の自宅を建てました。
義父に「タダでいいよ」と言われ、使用貸借で建てた家でした。
夫は10年前に病気で亡くなり、Bさん(65歳)が建物を相続して一人で住み続けていました。
問題の始まり
義父がこの度亡くなりました。
義父の土地を相続したのは義理の兄(義父の長男・70歳)です。
義理の兄から連絡が来ました。
「お義父さんがタダで貸していたのは弟(Bさんの夫)にだった。弟は亡くなっているから、使用貸借は終わっているはず。土地を返してほしい」と・・・
法律の現実
「使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う」(民法599条)。借主(夫)が亡くなり、妻(Bさん)が建物を相続した場合、建物を取り壊し土地を返還しなければならないことになる。
民法599条の規定は明確です。
使用貸借の「借主」が死亡した場合、使用貸借はその時点で終了します。
Bさんが建物を相続できても、「土地を使う権利(使用借権)」は夫の死亡時点で消滅しています。
つまりBさんは「建物の所有者」だが「土地を使う権利がない」という状態になっています。
建物があっても土地を使えないなら、最終的には建物を解体して土地を返すことになります。
末路
Bさんは弁護士に相談しましたが、「使用貸借は夫の死亡で終了しており、法的には義理の兄の主張が正しい」という見解でした。
65歳で家を失う。
Bさんは今後の住まいを探しながら、夫が建てた家の解体を準備しています。
解体費用は自己負担。
義理の兄との関係は修復不可能になりました。
ケース③ 借地契約していたCさんの話。同じ「親の土地」でも全然違う末路
背景
CさんとAさんは同じ状況から始まりました。
「父親の土地に家を建てたい」と相談したとき、父親は不動産の知識がある人でした。
父親の提案:「タダで貸すと後でトラブルになるから、ちゃんと地代を払って借りなさい。毎月5万円を地代として払うこと。契約書も作っておく」
Cさんは最初「自分の親なのに地代を払うの?」と思いましたが、父親の言葉を受け入れて毎月5万円の地代を30年間払い続けました。
父親が亡くなったとき
父親が亡くなり、土地を兄弟で分け合う話し合いになりました。
Cさんが家を建てた土地は、Cさんの兄が相続することになりました。
法律の現実と違い
借地権は借地借家法によって借地人の権利が強く保護されています。
借地権を法定相続人に引き継ぐ場合、地主の許可は不要。
法律上は敷金も含め従前の条件のまま賃貸借契約が引き継がれます。
Cさんは地代を払っていたため、「借地権」が発生していました。
借地借家法の保護を受けている借地権は、地主(父→兄)が変わっても継続します。
兄が「返せ」と言っても、Cさんは借地借家法に基づいて「私には借地権がある」と主張できます。
法的な保護が全く違います。
兄がCさんに「土地を返してほしい」というためには、法的に認められる正当事由が必要で、単純に「自分が相続したから」では立ち退きを求めることができません。
末路(穏やかな解決)
「そのまま兄に地代を払い続ける」
Cさんはこの選択をしました。
毎月5万円の地代は兄への支払いに変わりましたが、住む場所は守られています。
「30年で総額1,800万円の地代を払った」という計算になりますが、住む場所を失うリスクがなかったことを考えれば、Cさんはこの選択を後悔していません。

3つのケースの比較まとめ
|
ケース① |
ケース② |
ケース③ |
| 土地の借り方 |
使用貸借(無償) |
使用貸借(無償) |
借地契約(地代5万円/月) |
| 契約書 |
なし |
なし |
あり |
| 親の死後 |
兄弟でもめる |
義理の兄に返還を求められる |
地代の支払先が変わるだけ |
| 法的な保護 |
弱い |
弱い(借主死亡で終了) |
強い(借地借家法) |
| 結末 |
2,000万円で土地を買い取り |
家を解体・住む場所を失う |
そのまま住み続けられる |
| 総コスト |
建物費用+2,000万円 |
建物費用+解体費用 |
建物費用+1,800万円(地代) |
「親だから大丈夫」が一番危ない
3つのケースに共通しているのは「最初の段階では何も問題がなかった」ということです。
親が元気なうちは「タダで貸してあげているよ」という親心が機能します。
問題は「親が亡くなって第三者(他の兄弟)が土地を相続した瞬間」に、その親心が消える、ということです。
「親だから大丈夫」が通用するのは、親が生きている間だけです。
使用貸借契約の相続は賃貸借契約とは大きく異なる。
特に親子間での土地の使用貸借では、相続開始と同時に契約が終了する可能性が高い。

「使用貸借でも、遺言で守れる場合がある」
「じゃあ今から何かできないか」という方のために。
遺言を書いてもらうことで、使用貸借の問題を軽減できる場合があります。
「この土地はAに相続させる」という遺言があれば、Aさんが土地を相続できるため問題が起きません。
あるいは「この土地はAが住み続けることを条件にBに相続させる」という内容の遺言を書いてもらうことで、兄弟間のトラブルを防ぐ可能性があります。
ただし遺言の内容・効力については、家族の状況・財産の構成によって異なります。
これは相続専門の弁護士・司法書士に相談してください。
「今の自分はどっちか」を確認する方法
自分が「使用貸借」か「借地契約」かを確認する方法は単純です。
- 地代を払っていない・契約書がない→使用貸借の可能性が高い
- 毎月一定額を払っている・契約書がある→借地契約の可能性が高い
ただし「固定資産税相当額しか払っていない」という場合、使用貸借とみなされることがあります。
地代として認められるためには、地域の相場に近い金額を払っている必要があります。
「自分はどっちか分からない」という方、まず弁護士・司法書士に確認してもらってください。
清新ハウスでも連携している専門家をご紹介しています。

新潟で「親の土地に家を建てる」方へ
新潟では「田畑・山林の土地が親名義のまま残っている」「実家の隣の空き地に家を建てた」という話が多い地域です。
「うちは問題ない」と思っている方も、一度「今の状態がどの形か」を確認することをおすすめします。
問題が起きるのは必ず「相続が発生した後」です。
問題が起きてから相談しても、できることが限られてきます。
「親が元気なうちに、土地の貸し借りの形を整理する」
これが一番の対策です。
清新ハウスでは空き家アドバイザーとして、「土地の利用関係から相続・活用まで」の相談に対応しています。
専門家の紹介も含めてご相談ください。
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