
不動産を売るときは、普通は値段をつけて売ります。
1,000万円でも、100万円でも、たとえ1円でも、売主がお金を受け取って、買主に渡す。それが当たり前だと思われていると思います。
ところが、空き家の相談を受けていると、この当たり前が通用しないケースが増えてきました。
売主のほうがお金を払って、業者に引き取ってもらう。
つまり、値段がマイナスの不動産です。
私が相談を受ける中で見聞きする引き取り料は、100万円から500万円くらいが多いです。
物件の状態や場所によっては、それ以上になることもあります。
「実家を処分したら、少しはお金が残ると思っていた」という方にとっては、かなりショックな話だと思います。
私自身、この仕事を長くやってきて、ここ数年でこういう話が珍しくなくなってきたことに驚いています。
今日は、いわゆる「負動産」の現実を、できるだけそのままお伝えします。
脅すつもりはありません。
ただ、知っておくだけで打てる手が変わるので、少し耳の痛い話も含めて書いておきます。
負動産とは、持っているだけでお金が出ていく不動産
負動産という言葉は、正式な用語ではありません。
「資産」ではなく「負債」のようになってしまった不動産を指して、そう呼ばれるようになりました。
持っているだけで、固定資産税がかかります。
空き家なら、草刈りや雪下ろし、見回りの手間や費用がかかります。
建物が傷めば修繕か解体が必要になり、放っておけば近所に迷惑がかかったり、事故が起きたときの責任を問われたりします。
それでいて、売ろうとしても買い手がつかない。
貸そうとしても借り手がいない。
こういう不動産は、全国で増えています。
新潟も例外ではなく、むしろ郊外や中山間地、雪の多い地域では、こうした物件の相談が目立ちます。

なぜ「引き取り料」が100万〜500万円にもなるのか
「タダでもいいから持っていってほしい」と思っている方は多いと思います。
それなのに、なぜ逆にお金を払わなければならないのか。
引き取る側の業者の立場で考えると、理由が見えてきます。
業者は、引き取った不動産をどうにかしてお金にしなければなりません。
でも、そもそも売れないから引き取りを頼まれている物件です。
業者が引き取ったあとにかかる費用を、先に売主から受け取っておかないと、業者は赤字になります。
業者が見込んでいる費用は、たとえば次のようなものです。
- 建物の解体費用:木造の住宅1棟で、100万〜200万円くらいかかることもあります
- 家の中や納屋に残った家財・農機具などの処分費用:数十万円から、多いと100万円近く
- 附属建物(納屋、車庫、蔵など)の解体費用
- 建物が未登記なら、登記の費用
- 売れるまでの間の固定資産税や管理費用
- 最終的に売れない場合のリスク
これを足していくと、100万〜500万円という金額は、決して法外な数字ではないことが分かります。
逆に言えば、引き取り料の中身は、本来なら持ち主が自分で払うはずだった費用を、まとめて先払いしているようなものです。

引き取り料がかかりやすい物件の特徴
どういう物件が、値段のつかない負動産になりやすいのか。
現場で見ていて感じる特徴を書いておきます。
立地の需要がない
駅や商業施設から遠い、集落の人口が減っている、周りにも空き家が多い、という場所です。
建物がどれだけしっかりしていても、住みたい人がいなければ売れません。
建物が古く、解体が前提になる
築40年、50年を超えて、長く空き家になっていた建物は、住むためには大規模な修繕が必要になります。
買い手から見ると、解体費用がかかる分だけ、土地の値段から差し引いて考えることになります。
土地の値段より解体費用のほうが高ければ、マイナスになります。
敷地に附属建物や残置物が多い
納屋や蔵、車庫がいくつも建っていて、中に物がぎっしり詰まっている。
この処分費用が、土地の値段を上回ってしまうことがあります。
建物が未登記、境界があいまい、名義が古い
建物が登記されていない、隣との境界がはっきりしない、名義が祖父のままになっている。
こういう物件は、売るための準備に費用と時間がかかるので、買い手が敬遠します。
再建築ができない土地
道路に面していない、または接している幅が狭い土地は、今の建物を壊すと新しく家を建てられないことがあります。
建て替えができない土地は、買い手がかなり限られます。
農地や山林が一緒についてくる
実家の宅地だけでなく、周りの田畑や山林も一緒に相続している場合、宅地は売れても農地や山林が残ってしまう、ということがあります。
相談の場でよくある流れ
実際のご相談では、次のような流れをたどることが多いです。
親が亡くなって、実家を相続した。
最初の1、2年は、片付けもできていないし、兄弟で話し合う時間もなくて、そのままにしていた。
そのうち、固定資産税の支払いや、冬の雪下ろしの手配が負担になってきて、売ろうと決めた。
地元の不動産会社に相談すると、「この場所だと、建物を壊して土地として売るしかない。
解体費を考えると、ほとんど手元には残らない」と言われる。
それでも売りに出してみたけれど、1年たっても問い合わせがない。
そのころには、建物の傷みも進んでいて、屋根の一部から雨漏りが始まっている。
納屋の中には、親が使っていた農機具や古い家財がそのまま残っている。
ここまで来て、インターネットで「空き家 引き取り」と調べて、引き取り業者に見積もりを頼むと、数百万円という金額が出てくる。
最初の段階で相談に来てもらえていれば、建物がまだ使えるうちに、リフォームして住みたい人を探す、という選択肢もあったかもしれません。
この流れの中で一番大きかったのは、最初の「そのままにしていた」数年間だった、ということがよくあります。

持ち続けるのも、ただではない
「お金を払って手放すくらいなら、持っておけばいい」と考える方もいると思います。
ただ、持ち続けることにも確実に費用がかかります。
たとえば、固定資産税が年に5万円、雪下ろしや草刈り、見回りなどの管理に年に20万円かかる空き家だとすると、10年で250万円です。
その間に建物は傷んでいくので、10年後の解体費用は今より上がっているかもしれません。
※これはあくまで説明のための仮の数字です。実際の金額は物件によって大きく違います。
さらに、管理が行き届いていない空き家は、市町村から「管理不全空家」として指導や勧告を受けることがあります。
勧告を受けると、土地の固定資産税の住宅用地の特例が外れて、税金が上がる可能性があります。
屋根の雪が隣の家に落ちた、瓦が飛んで通行人にけがをさせた、という事故が起きれば、その責任は持ち主にあります。
そして、持ち主が亡くなれば、今度は子どもや孫がこの不動産を相続します。
自分の代で片付けられなかった問題を、次の世代にそのまま渡すことになります。
持ち続けることは、「何もしない」ことではなくて、「毎年お金を払い続けて、最後の処分を先送りする」ことなんです。
引き取り業者を使うときに気をつけてほしいこと
引き取り業者に頼むこと自体は、悪いことではありません。
どうしても買い手がつかない物件を、費用を払ってでも手放したい、という判断は十分にありえます。
ただ、この分野には注意してほしいこともあります。
売れない土地の「引き取り」や「買い取り」をうたって、測量費や手続き費用などの名目でお金を払わせたうえで、実際には手続きをしなかったり、別の土地を買わせたりするトラブルがあります。
国土交通省や国民生活センターも、原野商法の二次被害として注意を呼びかけています。
引き取りを頼むときは、少なくとも次のことを確認してください。
- 宅地建物取引業の免許を持っている会社か
- 引き取りの契約が、所有権をきちんと相手に移す内容になっているか(所有権移転登記まで確実に行われるか)
- 引き取り料の内訳と、あとから追加で請求される費用がないか
- お金を払うタイミングが、登記が終わる前の全額先払いになっていないか
- 別の土地の購入や、別のサービスの契約がセットになっていないか
電話や訪問で突然「その土地を引き取ります」と言ってくる業者には、特に注意してください。
こちらから相談していないのに、向こうから声をかけてくる場合は、一度立ち止まって、家族や信頼できる専門家に相談してから決めるのが安全です。

引き取り料を払う前に、検討してほしい選択肢
引き取り業者に頼む前に、ほかの方法で手放せないかも確認しておきたいところです。
不動産会社に売却を依頼する
「売れない」と思い込んでいるだけで、値段を下げれば買い手がつく物件もあります。
2024年からは、800万円以下の安い物件でも、不動産会社が一定の報酬を受け取れるように仲介手数料のルールが見直されました。
以前は「安すぎて扱ってもらえない」と言われた物件でも、相談に乗ってもらいやすくなっています。
隣の家や近所の人に声をかける
一般の人には使いにくい土地でも、隣に住んでいる人にとっては、駐車場や畑、庭として価値がある場合があります。
空き家バンクに登録する
市町村が運営している空き家バンクを通じて、移住を考えている人とつながる可能性があります。
相続土地国庫帰属制度を使う
相続した土地を、一定の条件を満たせば国に引き取ってもらえる制度です。
ただし、建物が建っている土地は対象外なので、解体が前提になります。
審査手数料と、原則20万円の負担金(土地の種類や面積によってはそれ以上)がかかり、条件もかなり厳しいです。
相続放棄を検討する
まだ相続が始まったばかりなら、相続放棄という方法もあります。
ただし、相続があったことを知ってから原則3か月以内に家庭裁判所で手続きが必要で、実家だけでなく、預金などほかの財産もすべて相続できなくなります。
慎重に判断してください。
こうした選択肢を並べて、それぞれにかかる費用と時間を比べてから、それでも引き取りが一番いい、となったときに引き取り業者を使う。
この順番をおすすめしています。

早く動くほど、選択肢は多く残る
負動産の相談を受けていて、一番もどかしいのは、「数年前に相談してもらえていたら、売れたかもしれない」というケースです。
空き家は、人が住まなくなった瞬間から傷み始めます。
新潟の場合は雪があるので、一冬越すごとに屋根や建具が傷んで、建物の価値ははっきり下がっていきます。
3年前ならまだ住める状態で、リフォームして住みたいという買い手がいたかもしれない家が、今は解体が前提の物件になっている。
そうなると、値段がつかなくなるどころか、マイナスになってしまいます。
時間がたって困るのは建物だけではありません。
親から相続した家を売ったとき、一定の条件を満たせば譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例がありますが、これには相続から3年という期限があります。
相続人が亡くなって次の相続が起きれば、関係者が増えて、話がまとまりにくくなります。
親が認知症になれば、売ることも契約することもできなくなります。
どれも、「そのうち考えよう」と思っている間に進んでいきます。
逆に言えば、今動けば、まだ打てる手がある物件は少なくありません。
建物が使える状態のうちに売る、解体して土地として売る、隣の方に声をかける。
早めに状況を整理しておくだけで、引き取り料を払わずに済むこともあります。
清新ハウスにご相談ください
清新ハウスでは、新潟市を中心に空き家や相続した不動産の処分のご相談を受けています。
建築士として実際に現地を見て、建物の状態、登記や境界の状況、附属建物や残置物の量などを確認したうえで、次のようなことを整理してお伝えします。
- 今のままで売れる可能性があるか
- 解体して土地として売ったほうがいいか
- 売るまでにどんな準備と費用が必要か
- 国庫帰属制度や引き取りを考えたほうがいい物件か
- それぞれの方法で、最終的にいくら手元に残るか、あるいはいくら出ていくか
どの方法がいいかは、物件によって本当に違います。
売れる物件を「引き取り料を払いましょう」とすすめることはしませんし、逆に、見込みのない売却活動を続けて時間とお金を無駄にするような提案もしません。
「うちの実家は売れるんだろうか」
「引き取り業者から電話がかかってきたけど、大丈夫だろうか」
という段階でのご相談で大丈夫です。
固定資産税の通知書や、登記の書類が手元にあれば、それを見ながらお話しできます。
実家のことを考えるのは、気が重いことだと思います。
でも、今が一番選択肢の多いタイミングです。
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