「気に入った間取りが出てきたし、キャンペーン中だから早く契約しよう!」
ちょっと待ってください!家づくりにおける「契約」には、実は「設計を決める契約」と「実際に工事をお願いする契約」という、とても大切な2つのステップがあります。
この順番と意味を正しく理解しておかないと、後から大きなトラブルに繋がることも…。
これから契約を控える方に、住宅会社の社長として誠実にお伝えしたい「契約の正しい段取り」をお話しします。

家づくりの契約は「1回」ではない。2段階が基本
多くの建て主さんが誤解しているのが、「住宅会社との契約は1回で、そこですべてが決まる」というイメージです。
実際の家づくりでは、一般的に以下の2つの契約を、別々のタイミングで交わします。
① 設計契約(設計受託契約・設計監理契約)
間取り・基本仕様・概算予算を具体的に詰めていくための契約です。
この契約を結ぶことで、住宅会社や設計事務所は、敷地調査・詳細な設計図面の作成・仕様の打ち合わせといった「設計業務」を正式に開始します。
② 建築工事請負契約(本契約)
設計内容と見積金額が確定した後、「この図面の通りに、この金額で工事をしてください」と正式に依頼する契約です。
着工・完成・引き渡しまでの工事全体に関わる、家づくりの本丸となる契約です。
つまり、「設計を固める契約」と「工事を頼む契約」は、目的も内容もまったく別物なのです。
この2段階に分かれている理由は、建て主を守るためでもあります。
設計が固まっていない段階で工事契約まで一気に結んでしまうと、「金額の根拠となる図面・仕様が曖昧なまま、総額だけが先に決まる」という、極めてリスクの高い状態になってしまうからです。

なぜ「早く契約させよう」とする住宅会社があるのか
残念ながら、業界の一部には「とにかく早く契約を取る」ことを優先する営業スタイルが存在します。
よく使われるのが、以下のようなセールストークです。
- 「今月中に契約いただければ、キャンペーンで〇〇万円お値引きします」
- 「この金額は今だけです。来月から資材が値上がりします」
- 「仮契約なので、後からいくらでも変更できますよ」
- 「みなさんこの段階で契約されていますよ」
もちろん、キャンペーンや資材価格の変動自体は事実であるケースもあります。
しかし問題は、設計内容が固まっていない段階で「工事請負契約」まで結ばせようとする進め方です。
ここで知っておいてほしい重要な事実があります。
「仮契約」という言葉に、法的な意味はありません。
契約書に署名・捺印すれば、それは「仮」であろうと正式な契約として法的効力を持ちます。
「仮契約だから気軽に」という言葉を信じて判を押した結果、解約時に違約金・実費精算を求められるトラブルは、住宅業界の相談窓口に数多く寄せられています。

【事例①】設計が固まる前に請負契約を結び、後悔したGさんのケース
実際によくあるトラブルのパターンをご紹介します。
状況
Gさんご夫婦は、住宅展示場で気に入った住宅会社から「今月末までのキャンペーンで100万円値引き」と提案され、ラフな間取り図と概算見積もりだけの段階で、建築工事請負契約を結びました。
営業担当者からは「詳細は契約後にじっくり決めていけば大丈夫です」と説明されていました。
発生した問題
契約後、詳細打ち合わせが始まると、次々と想定外の事態が起こりました。
- 希望していた対面キッチンへの変更が「構造上難しい」と言われ、実現できなかった
- 標準仕様と思っていた設備の多くが実はオプション扱いで、追加費用が300万円近く膨らんだ
- 「これなら他社のプランのほうが良かったのでは」と感じ始めたが、解約を申し出ると「すでに実施した設計費・申請準備費」として高額な精算金を提示された
教訓
Gさんのケースの根本的な問題は、「何を・いくらで建てるか」が確定していない段階で、工事請負契約を結んでしまったことにあります。
請負契約は「この内容で工事をする」という約束ですから、その「内容」が曖昧なまま契約すれば、後の変更・追加はすべて「契約後の変更協議」となり、建て主側の交渉力は大きく下がってしまいます。
【事例②】2段階の手順を踏み、納得の家づくりができたHさんのケース
対照的に、正しい手順で進めたケースも見てみましょう。
状況
Hさんご夫婦は、気になる住宅会社に対してまず「設計契約」を申し込みました。
設計料として一定額(この会社の場合は着手金として数十万円)を支払い、敷地調査・地盤確認・詳細な間取り設計・仕様の打ち合わせを約3ヶ月かけてじっくり行いました。
進め方のポイント
- 設計契約の段階で、「設計料の金額」「工事請負契約に至らなかった場合の精算ルール」を書面で確認した
- 詳細図面と仕様書に基づいた「確定見積もり」が出るまで、請負契約は結ばなかった
- 見積もり確定後、内容を1週間かけて家族で検討し、納得した上で建築工事請負契約を締結した
結果
契約後の大きな仕様変更・追加費用はほぼ発生せず、当初の資金計画通りに完成・引き渡しとなりました。
Hさんは「設計の段階でとことん悩めたから、請負契約のときは何の不安もなかった」と話しています。
教訓
設計契約と請負契約を分けることは、一見すると「手間が増える」「設計料を先に払うのが不安」と感じるかもしれません。
しかし実際には、設計段階でじっくり検討する時間こそが、契約後のトラブル・予算オーバーを防ぐ最大の保険になるのです。

設計契約を結ぶ前に確認すべき5つのポイント
では、最初のステップである「設計契約」の際に、何を確認すればよいのでしょうか。
① 設計料の金額と支払いタイミング
設計料がいくらか、いつ支払うのか(契約時一括か、段階払いか)を明確にしましょう。
住宅会社によっては、工事請負契約に進んだ場合に設計料を工事費に充当する仕組みを取っているところもあります。
② 設計業務の範囲
敷地調査・地盤調査・詳細図面の作成・確認申請の準備など、この契約でどこまでの業務が行われるのかを確認します。
「概算見積もりだけでは含まれない業務」がある場合、その扱いも確認しておきましょう。
③ 請負契約に至らなかった場合の精算ルール
最も重要なポイントです。
設計を進めた結果、「この会社とは工事契約をしない」と判断した場合、支払った設計料はどうなるのか、追加の精算が発生するのかを、契約前に書面で確認してください。
④ 設計図面・成果物の帰属
作成された図面を、他社での建築に使用できるのか(一般的にはできないケースが多い)、著作権の扱いはどうなるのかも確認しておくと安心です。
⑤ 設計期間の目安
設計にどれくらいの期間をかけるのか、おおよそのスケジュール感を共有しておきましょう。
「早く着工したい」という焦りが、検討不足のまま請負契約へ進む原因になりがちです。

建築工事請負契約を結ぶ前に確認すべき5つのポイント
設計が固まり、いよいよ工事請負契約という段階では、以下を確認してください。
① 契約金額の根拠となる「図面」と「仕様書」が揃っているか
請負契約書には、必ず詳細な設計図面と仕様書(使用する建材・設備のメーカー・品番まで記載されたもの)が添付されているべきです。
「詳細は後で」という状態での契約は避けてください。
② 見積もりに含まれるもの・含まれないものの確認
以前の記事でも解説した通り、付帯工事費(地盤改良・外構・給排水引き込み等)や諸費用が見積もりに含まれているかを、項目ごとに確認します。
「別途工事」の項目が多い見積もりは、総額が膨らむリスクが高いサインです。
③ 支払いスケジュール
契約時・着工時・上棟時・引き渡し時など、どのタイミングでいくら支払うのかを確認します。
工事の進捗に対して支払いが先行しすぎる契約は、万が一の会社の倒産リスクを考えると避けたいところです。
④ 工期と遅延時の取り決め
着工日・完成予定日と、天候や資材調達の遅れなどで工期が延びた場合の扱いを確認しておきましょう。
⑤ 契約解除・違約金の条項
万が一契約を解除する場合の条件と、違約金・精算金の計算方法を必ず読み込んでください。
理解できない条項があれば、署名の前に説明を求めることは、建て主として当然の権利です。
「クーリングオフ」は原則使えないことを知っておく
もう一つ、知っておいてほしい法律知識があります。
訪問販売などで使える「クーリングオフ制度」は、建て主自身が住宅展示場やモデルハウス、会社の事務所へ出向いて契約した場合には、原則として適用されません。
クーリングオフが適用されるのは、自宅への訪問営業など、特定の条件下で契約した場合に限られます。
つまり、展示場で「その場の勢い」で契約してしまった場合、「クーリングオフで無かったことにする」という手段は基本的に使えないのです。
契約書に判を押す前の慎重な検討が、何よりも重要である理由がここにあります。

契約を急かされたときの、上手な断り方
「今月中に」「キャンペーンが終わる」と急かされたとき、角を立てずに検討時間を確保するための言い方をいくつかご紹介します。
- 「家族(親)とも相談したいので、1週間お時間をください」
- 「設計内容をしっかり固めてから請負契約に進みたいので、まず設計契約から進めさせてください」
- 「他社の提案も比較した上で決めたいと考えています」
- 「資金計画を金融機関と確認してから返事をさせてください」
誠実な住宅会社であれば、こうした申し出を尊重してくれるはずです。
逆に、検討時間を求めたときに強引な引き止め・過度な値引き提示・不安をあおる発言が出てくる会社は、その対応自体が判断材料になります。
私自身、住宅会社の経営者として断言しますが、本当に建て主のことを考えている会社は、契約を急がせません。
なぜなら、納得のないまま結ばれた契約は、その後の打ち合わせ・工事・引き渡し後の関係まで、すべてに悪影響を及ぼすことを知っているからです。
2段階契約の流れ・全体像のおさらい
最後に、理想的な契約の流れを時系列で整理します。
- 情報収集・会社比較:展示場見学・資料請求・相見積もり(この段階では契約不要)
- 会社の絞り込み:ラフプラン・概算見積もりの比較検討
- 設計契約の締結:設計料・精算ルールを確認した上で契約。詳細設計スタート
- 設計・仕様の確定:間取り・設備・建材をじっくり検討(数ヶ月かけてOK)
- 確定見積もりの取得:詳細図面・仕様書に基づいた正式な見積もり
- 建築工事請負契約の締結:図面・仕様書・見積もり・支払条件・解除条項を確認した上で契約
- 着工〜完成〜引き渡し
このうち、建て主として絶対に守ってほしいのは、「4と5が終わるまで、6に進まない」というルールです。
この順番さえ守れば、家づくりの契約トラブルの大半は防ぐことができます。

まとめ
家づくりの契約の2段階手順について、覚えておいてほしいポイントを整理します。
- 家づくりの契約は「設計契約」と「建築工事請負契約」の2段階に分かれているのが基本
- 「仮契約」という言葉に法的な意味はなく、署名・捺印すれば正式な契約になる
- 設計・仕様・見積もりが確定する前に請負契約を結ぶのは、トラブルの最大の原因
- 設計契約では「設計料・業務範囲・請負に至らなかった場合の精算ルール」を必ず書面で確認する
- 請負契約では「図面・仕様書の添付、支払スケジュール、解除条項」を必ず確認する
- 展示場等での契約にはクーリングオフが原則適用されないため、事前の検討が何より重要
- 契約を急かす会社より、検討時間を尊重してくれる会社を選ぶ
「早く契約したほうがお得」という言葉の前で、一度立ち止まってください。
数十年住み続ける家のための契約です。
焦らず、正しい順番で、納得のいく家づくりを進めていきましょう。
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