
先日、ある記事を読んで、思わず手が止まりました。
モバイルバッテリー最大手Ankerの創業者兼CEOである陽萌氏が、モバイルバッテリー市場は「数年したら終わるかもしれない」と発言したというニュースです。
御存じでしょうか?
これは自社製品の将来に対する、創業者自身の言葉です。
普通、経営者は自社の主力商品を「まだまだ伸びる」と言うもの。
投資家がいる、社員がいる、メディアが見ている。
そういう場で、自分の会社が育てた市場に「終わりが来るかもしれない」と言える人間が、世界に何人いるか・・・
私はこの発言を、単なるガジェット業界の話として読み飛ばすことができませんでした。
なぜなら、この言葉の本質は住宅業界にも、そして私自身の経営にも深く刺さるものだったからです。
「10年サイクル」という視点
陽萌氏はモバイルバッテリーを、MP3プレーヤーやカセットプレーヤー、CDプレーヤーといった過去の電子機器になぞらえ、「ユーザーが買い始めてから市場に見捨てられるまでのライフサイクルはせいぜい10年程度だった」と述べたといいます。
MP3プレーヤー。
懐かしい響きです。
2000年代前半、あれだけ一世を風靡した製品が、スマートフォンの登場であっという間に消えた。
CDプレーヤーも、カーナビも、デジタルカメラも——気づけば「専用機器」というカテゴリーが軒並み消滅している。
技術の進化は「便利なものを作る」のではなく、「別の何かに吸収させる」という形で起きることが多い。
そしてその吸収が完了した瞬間、前の製品は不要になる。
モバイルバッテリーの場合、吸収先は何でしょうか。
スマートフォン本体のバッテリー容量の急拡大、ワイヤレス充電インフラの普及、そして電気自動車と連動したエネルギー管理システム、複数の「吸収先」が同時に進化しています。
スマホ内蔵バッテリーは技術の進歩により「サイズはそのままに大容量化」が進む傾向もあり、外付けバッテリーを持ち歩く必然性が薄れていく未来は、確かに現実味を帯びています。

「売れているうちに言える」勇気
もうひとつ注目したいのは、このタイミングです。
2025年のAnkerの売上高は305億1400万元で前年比23.49%増加しており、2026年第1四半期も前年同期比26.93%増という好調ぶりです。
市場も縮小どころか拡大中です。
つまり、今は全く「危機」ではない。
むしろ絶好調の時期に、自ら「終わりが来る」と語ったんです。
これは経営における非常に重要な姿勢だと思います。
「売れているから大丈夫」
「今期の数字が良いから問題ない」
こういった思考に経営者は陥りやすいもの。
でも陽萌氏は、今まさに売れているその商品の「終わり」を冷静に見つめている。
だからこそAnkerは、従来型のモバイルバッテリーはもはや中核事業ではなく、より幅広い充電アクセサリー、スマートデバイス、エネルギー貯蔵製品へと事業を展開しているのです。
現在地に安住せず、次の景色を見ながら今を経営する。
この発想は、私が最も尊敬する経営スタイルのひとつです。

住宅業界も「10年サイクル」の外ではない
さて、ここからが本題です。
「住宅は違う。家は消えない」と思う方もいるでしょう。
確かに、建物そのものがMP3プレーヤーのように消滅することはありません。
しかし、「家の作り方」「家の売り方」「家に求められるもの」は、10年単位で劇的に変わっています。
10年前、住宅会社のウェブサイトに動画を載せている会社はほとんどいませんでした。
SNSで施工事例を発信するなんて、「そんなこと意味あるの?」と言われた時代です。
今や動画なしの集客は考えられない。
懐かしいです。
10年前、ZEH(ゼロエネルギーハウス)という言葉を知る一般の方はごく少数でした。
断熱等級4が「最高等級」だった時代もあります。
今は断熱等級6・7が当たり前の話題として出てきます。
10年前、空き家問題はまだ「将来の課題」でした。
住宅業界も変化しています。
ただ、その変化が「ゆっくり」なので、気づきにくいだけです。

「終わり」を先に語れる人が、次を作る
陽萌氏の発言で、もうひとつ印象に残った言葉があります。
2024年だけでもモバイルバッテリーは約100モデルもあり「どんな企業でも100種類ものモバイルバッテリー製品の品質を維持することは不可能だ」と認めたという点です。
これは正直な告白だと思います。
成長の勢いの中で、商品の数が増えすぎて管理が追いつかなくなった。
規模を追いかけた結果、品質という本質がぐらついた。
私たちの業界にも似た話があります。
受注を増やすために棟数を追いかけ、気づいたら現場の管理が追いつかなくなって、お客様への対応が薄くなる。
これは住宅業界の会社がよく陥る罠です。
だからこそ私は、「棟数」ではなく「一棟一棟の納得感」を経営の軸に置き続けることにこだわっています。
新潟という地方都市で、大手ハウスメーカーと同じ土俵で戦うつもりはない。
私たちにしかできない密度で、お客様と向き合うことが、長く続く会社の条件だと信じています。
ですので、最大でも年間10棟までしか建築しないことをテーマに設定しました。
変化を怖れるより、変化を先に語ろう
Anker創業者の発言は、ガジェット好きのニュースではありません。
これは「市場の変化を誰よりも早く認識し、自分の事業の未来を自分で語る」という、経営者としての覚悟の表明と感じます。
私も住宅会社として、常に「今の当たり前がいつまで続くか」を問い続けています。
変化を怖れて現状維持を選ぶのか。
それとも変化を先読みして、今から手を打つのか。
Ankerが次の10年に向けてすでに動いているように、私たちもただ家を建てるだけでなく、空き家活用・リノベーション・地域コミュニティとの連携という新しい柱を育てています。
家づくりを検討されているあなたにとっても、同じ視点が役に立つかもしれません。
「今の条件で建てるべきか」を悩むより、「10年後にどんな暮らしをしたいか」を先に決める。
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