「新潟の自然豊かな場所で、古い空き家を安く買って自分好みにリノベーションして暮らしたい!」
そんな素敵な夢を持って空き家バンクを調べる方が増えています。
しかし、いざ物件を決める段階で一番つまずきやすいのが、実は「お隣の土地との境目がどこか分からない」という境界トラブルです。
今回は、理想の地方移住やリノベを失敗させないために、古い物件を見るときに絶対に確認しておくべき不動産のポイントをお話しします。

空き家バンクとは。新潟での活用が広がる背景
まず、空き家バンクについて簡単におさらいしておきましょう。
空き家バンクとは、市町村などの自治体が主体となって、売りたい・貸したい空き家の情報を集め、移住希望者や利活用希望者に紹介する仕組みです。
新潟県内でも多くの市町村が空き家バンクを運営しており、市街地の中古住宅から、広い敷地付きの古民家、田畑や蔵が付いた物件まで、多様な空き家が登録されています。
新潟の空き家バンクが注目される理由は明確です。
- 首都圏に比べて物件価格が圧倒的に安く、広い敷地・建物が手に入る
- 豊かな自然環境・食文化と、新幹線での首都圏アクセスが両立している
- リモートワークの定着で、地方移住のハードルが下がった
- 古民家の梁や建具など、今では手に入らない素材への関心の高まり
一方で、空き家バンクに登録される物件の多くは、長年適切な管理・登記の更新がされてこなかった古い物件です。
ここに、都市部の不動産取引ではあまり出会わない「境界問題」が潜んでいます。

「境界が分からない」とは、どういう状態なのか
「土地の境界が曖昧」と聞いても、ピンとこない方が多いと思います。
具体的には、以下のような状態を指します。
① 境界標(杭)が現地に存在しない・見つからない
本来、土地の角には境界標(コンクリート杭・金属プレートなど)が設置されているべきですが、古い土地では、そもそも設置されていない、あるいは長年の間に埋もれたり抜かれたりして所在不明になっているケースが多くあります。
② 測量図・境界確認書が存在しない
昭和初期などの古い登記のままの土地では、正確な測量図が作られていないことがあります。
登記簿に記載された面積(公簿面積)と、実際の面積(実測面積)が大きく食い違っていることも珍しくありません。
③ 隣地との「筆界」と「所有権界」がズレている
ここが最も重要なポイントです。土地の境界には、法的に定められた「筆界(ひっかい)」と、実際にお隣さんが認識している「所有権界」という2つの概念があります。
境界(筆界)が確認できないという状況は、お隣さんが思っている境界(占有界・所有権界)と筆界の位置のズレから起こります。
長年の間に、塀や生け垣が本来の筆界とは違う位置に作られ、それが既成事実化しているケースが、地方の古い土地では頻繁に見られるのです。

なぜ境界問題があると、購入・リノベが進まないのか
「境界くらい、住んでから考えればいいのでは?」と思われるかもしれません。
しかし、境界が未確定のまま進めると、以下のような深刻な問題に直面します。
① 住宅ローン・リフォームローンの審査に影響する
筆界が未確認の土地は、買主にとって大きな不安材料になります。
公簿面積で契約すること(公簿売買)もありますが、融資・価格交渉・引渡し後のトラブル防止の観点から、金融機関から実測面積や確定測量図の提示を求められることが多いのが実情です。
境界未確定のままでは、融資審査が通らない・希望額まで借りられないという事態が起こりえます。
② リノベーション・増改築の計画に支障が出る
建物の増築や塀の設置、車庫の新設などを行う際、敷地境界からの離隔距離(民法上の50cm規定や建築基準法の規定)が問題になります。
境界が不明なままでは、「この位置に増築していいのか」が判断できず、設計そのものが進められません。
③ 購入後に隣地との紛争に巻き込まれるリスク
購入後に「その塀はうちの土地に食い込んでいる」「先代同士の口約束でこうなっている」といった主張が隣地から出てくると、新参者である移住者は極めて不利な立場に置かれます。
楽しいはずの移住生活が、境界紛争で台無しになるケースは、決して他人事ではありません。
④ 将来の売却が困難になる
自分が買うときに曖昧だった境界は、将来自分が売るときにも障害になります。
「安く買えた」はずの物件が、「売るに売れない」資産になってしまう可能性があるのです。

【事例①】古民家購入直前に境界問題が発覚したKさんのケース
実際によくあるパターンをご紹介します。
状況
首都圏から新潟への移住を計画していたKさんご夫婦は、空き家バンクで見つけた築80年の古民家(敷地約200坪・蔵付き)に一目惚れし、購入の意思を固めました。
価格も予算内で、リノベーション費用も十分に確保できる見込みでした。
発覚した問題
売買契約の準備段階で、以下のことが判明しました。
- 土地の登記は昭和20年代のまま。正確な測量図が存在しない
- 敷地の裏手にある竹林と隣地との境界標が見当たらない
- 隣地所有者の一人がすでに亡くなっており、相続人が県外に複数人いる状態
- 敷地の一部を、隣家が数十年にわたり家庭菜園として使用している
対応と結果
Kさんは、購入を急がず、まず土地家屋調査士に境界の調査を依頼しました。
調査の結果、家庭菜園部分は筆界上はKさんが購入予定の土地に含まれることが判明。
売主・隣地所有者・相続人との間で土地家屋調査士が調整を行い、約半年かけて境界確認書を取り交わした上で、安心して売買契約に進むことができました。
時間はかかりましたが、「購入前に境界を確定させた」ことで、Kさんは将来の紛争リスクを完全に断ち切って移住をスタートできたのです。

【事例②】登記と現況のズレで融資が止まりかけたLさんのケース
もう一つ、見落とされがちなパターンです。
状況
Lさんは空き家バンクで、母屋と離れ・物置小屋が付いた物件を見つけ、リフォームローンを利用して購入・改修する計画を立てました。
発覚した問題
金融機関の審査過程で、現況と登記の不一致が指摘されました。
古い空き家でよくあるのが、建物の現況が登記(表題部)に反映されていないケースです。
この物件では、過去に増築したのに建物表題部の変更登記がされておらず、さらに「離れ」「物置小屋」など別棟を建てたのに建物表題登記がされていない状態でした。
現況と登記が一致しないと、買主側の融資審査や売買手続で説明が求められ、取引が停滞することがあります。
対応と結果
土地家屋調査士に依頼し、建物表題部の変更登記・未登記建物の表題登記を実施。
登記と現況を一致させたことで融資審査が再開され、無事に購入・リフォームに進むことができました。
なお、表示に関する登記には法律上の申請義務が定められているため、本来は売主側が整えておくべきものですが、古い空き家では放置されていることが非常に多いのが実情です。

境界問題を解決する専門家と制度を知っておく
境界問題に直面したとき、頼るべき専門家と制度を整理します。
① 土地家屋調査士:境界問題の第一の相談先
土地の測量・境界の調査・表示に関する登記の専門家です。
境界標の設置や筆界の確認、地籍図や登記簿等の資料を利用した土地の表記・面積・地目などの情報確認、法務局への申請サポートまで、境界に関する実務全般を担います。
空き家購入で境界に不安がある場合、まず相談すべき専門家です。
② 確定測量の費用と期間の目安
境界が確定しているかわからない場合は、土地家屋調査士に調べてもらうのがベストです。
確定測量から登記までにかかる費用は、通常約35万円〜80万円程度で、土地の状況や必要な作業、役所の立ち会いが必要かどうかなどによって異なります。
また、測量にはすべての隣地所有者の立ち会いが必要であり、数ヶ月ほどの時間がかかることも見込んでおく必要があります。
③ 筆界特定制度:裁判なしで筆界を明らかにする国の制度
隣地所有者との話し合いで境界確認がまとまらない場合に活用できるのが、平成18年(2006年)から始まった「筆界特定制度」です。
土地の所有者などの申請に基づいて、筆界特定登記官が、民間の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、現地における土地の筆界の位置を特定する制度です。
裁判に比べて時間・費用を抑えながら、公的に筆界を明らかにできます。
④ ADR(裁判外紛争解決手続)という選択肢
筆界と所有権界がズレている場合など、当事者間の調整が必要なケースでは、土地家屋調査士会が運営する境界問題相談センター(ADR)を利用する方法もあります。
弁護士と土地家屋調査士が連携して話し合いによる解決を図る仕組みで、筆界特定制度や境界確定訴訟より素早く解決できる場合があります。
⑤ 司法書士:権利関係の整理の専門家
境界の物理的な確認と並行して必要になるのが、権利関係の整理です。
事例①のように相続登記がされていない土地・複数の相続人がいる土地では、司法書士による相続関係の調査・登記手続きが不可欠になります。
空き家バンク物件の内見時に確認すべきチェックリスト
これから物件を見に行く方のために、境界に関する実践的なチェックポイントをまとめます。
現地で確認すること
- 敷地の四隅・折れ点に境界標(コンクリート杭・金属プレート・プラスチック杭)があるか
- 塀・生け垣・水路などの工作物が、どちらの土地のものか売主に確認する
- 隣地の建物・物置・畑などが、敷地に食い込んでいるように見える箇所はないか
- 敷地に接する道路が公道か私道か(私道の場合は持分・通行掘削承諾の有無も)
書類で確認すること
- 確定測量図・地積測量図は存在するか(作成年月日も確認)
- 境界確認書(筆界確認書)は取り交わされているか
- 登記簿の面積(公簿面積)と、売主が認識している実際の面積に食い違いはないか
- 建物の登記(表題部)と現況(増築・離れ・物置等)は一致しているか
人に関して確認すること
- 隣地所有者は誰か、連絡が取れる状態か(相続未了・所在不明でないか)
- 隣地との過去のトラブル・取り決め(口約束を含む)はないか
- 売主自身が境界について把握しているか
このチェックで一つでも不安な点があれば、契約前に土地家屋調査士への相談を検討してください。
「よく分からないからそのまま」は、後々のトラブルにつながりやすい最も危険な判断です。

境界問題は「移住の夢を壊すもの」ではなく「事前に解決できるもの」
ここまで読んで、「地方の空き家って、なんだか怖いな」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、私がお伝えしたいのは逆です。
境界問題は、事前に知って、正しい手順を踏めば、確実に解決できる問題です。
事例のKさんもLさんも、購入前に専門家と連携したからこそ、問題を「購入後の紛争」ではなく「購入前の手続き」として処理できました。
かかった時間と費用は、将来の安心への投資として、十分に見合うものだったはずです。
むしろ危険なのは、境界の話題を避けたがる売主・仲介者や、「田舎はおおらかだから大丈夫」という根拠のない楽観です。
空き家バンクの物件は魅力的な価格のものが多いからこそ、「安さの理由」の中に境界問題が含まれていないかを、冷静に確認する目を持ってください。
新潟での移住・古民家再生は、正しい知識と専門家との連携があれば、必ず素晴らしいものになります。
まとめ
空き家バンク活用時の境界問題について、覚えておいてほしいポイントを整理します。
- 空き家バンクの古い物件は、境界標の不存在・測量図の未整備・登記と現況の不一致が多い
- 境界には法的な「筆界」と実際の利用状況による「所有権界」があり、このズレがトラブルの根源
- 境界未確定は、融資審査・リノベ計画・将来の売却すべてに影響する
- 確定測量の費用は約35万〜80万円、期間は数ヶ月が目安
- 話し合いで解決しない場合は「筆界特定制度」「ADR」という公的な解決手段がある
- 内見時は境界標・書類・隣地所有者の状況をチェックし、不安があれば契約前に土地家屋調査士へ
- 境界問題は事前に知って手順を踏めば解決できる。恐れるより、正しく確認を
理想の移住・古民家リノベを実現するために、「境界」という地味だけれど大切なポイントを、ぜひ物件選びの最初のチェック項目に加えてください。
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