
古民家を安く買えたので、民泊にしたいんです。改修の見積もりをお願いできますか」
こういうご相談、ここ数年でかなり増えました。
新潟は古い農家住宅や町家が多くて、空き家バンクや知り合いのつてで、びっくりするような値段で手に入ることもあります。
ただ、見積もりのお話をすると、ほぼ毎回「えっ、そんな調査がいるんですか」と言われる項目があります。
それがアスベスト(石綿)の事前調査です。
はっきり言います。
今は、リフォームでも解体でも、工事をする前にアスベストが使われていないかを調べることが法律で義務になっています。
建物が小さくても、工事の金額が小さくても、です。2023年10月からは、その調査を決められた資格を持った人がやらないといけなくなりました。
調査そのものの費用はそこまで大きくないこともあります。
怖いのは、調べたらアスベストが見つかって、除去や飛散防止の工事が必要になったときです。
物件の購入と改修でぎりぎりの予算を組んでいると、着工したあとに資金が足りなくなる、ということが起こりえます。
今日は、民泊や宿泊施設を始めたい方、古民家の購入を考えている方に向けて、アスベスト事前調査の義務の中身と、物件を買う前にどうお金の計画を立てておけばいいかを書いておきます。
アスベスト事前調査は、どう義務化されてきたのか
アスベストは、昔は燃えにくくて丈夫で安い建材として、屋根材、外壁、天井板、床材、断熱材などに広く使われていました。
吸い込むと長い年月をへて肺の病気を引き起こすおそれがあることから、2006年9月に、含有率が0.1%を超えるものの製造や使用が全面的に禁止されています。
禁止される前に建てられた建物には、今もアスベストを含む建材が残っている可能性があります。
それを壊したり削ったりするときに、粉じんが飛び散らないようにするための決まりが、大気汚染防止法と、厚生労働省の石綿障害予防規則です。
この決まりが、ここ数年で段階的に厳しくなりました。
2021年4月から:すべての工事で事前調査、すべての建材が対象に
改正された大気汚染防止法が施行されて、解体や改修の工事では、規模や請負金額に関わらず、元請業者が事前にアスベストの有無を調べることになりました。
それまで規制の対象外だった、スレートの屋根材や外壁材、天井板などの「成形板」と呼ばれる建材(レベル3)も、規制の対象に加わりました。
古い住宅で一番よく見かけるのがこの種類なので、戸建てや古民家の改修にとって影響の大きい改正でした。
2022年4月から:一定規模以上の工事は、調査結果の報告が必要に
解体工事は床面積の合計が80㎡以上、改修工事は請負金額が税込100万円以上の場合、事前調査の結果を、電子システムで都道府県などと労働基準監督署に報告することになりました。
古民家は床面積が大きいので、解体部分を含む工事では80㎡を超えることが多いです。
民泊への改修工事も、100万円を下回ることはまずありません。
つまり、古民家の民泊改修は、ほぼ確実に報告の対象になると思っておいてください。
2023年10月から:建築物の調査は有資格者が行う
建築物の事前調査は、「建築物石綿含有建材調査者」の資格を持った人など、決められた人が行わなければならなくなりました。
それまでは、知識のある人が調べればいいという扱いでしたが、今は資格のない人が「たぶん大丈夫」と判断して工事を進めることはできません。
ご相談の中で「2023年10月から事前調査が義務になった」と言われることがあるんですが、正確には、調査そのものの義務は2021年4月からで、2023年10月からは「有資格者が調べること」まで求められるようになった、という順番です。
どちらにしても、今はリフォームも解体も、資格者による事前調査なしには始められない、ということに変わりはありません。
調査の結果は、現場に掲示して記録を残す
調査の結果は、工事の現場の見やすい場所に掲示して、記録を3年間保存することになっています。
工事の発注者にも、調査結果を書面で説明することが元請業者に求められています。
発注者の側にも、元請業者が調査をきちんとできるように、必要な費用や工期について配慮することが求められています。
「調査なんていらないから安くして」というお願いは、法律上も通りません。
「築年数に関わらず」の意味
事前調査は、建物が古くても新しくても必要です。
ただ、2006年9月1日以降に着工した建物であれば、設計図書などでその着工日を確認することで、調査を行ったことになる扱いがあります。
分析までは必要ありません。
古民家の場合はまず間違いなくそれより前の建物なので、この扱いは使えません。
書面の確認と、現地での目視、必要に応じて建材の一部を採取して分析する、という本来の調査が必要になります。
古民家のどこに、アスベストが使われていることが多いか
「古民家は木と土と紙でできているんだから、アスベストなんて関係ないでしょう」と言われることがあります。
建てられた当時のままの部分は、たしかにそうかもしれません。
でも、実際の古民家は、何十年も住み継がれる中で、何度も手が入っています。
昭和40年代から60年代にかけての改修で、当時は普通だったアスベスト含有の建材が使われていることがよくあります。
現場でよく見るのは、次のようなところです。

- 茅葺きや瓦から葺き替えた、スレートの屋根
- 納屋、作業小屋、車庫の波形スレートの屋根や壁
- 台所や浴室の天井に張られた、ケイ酸カルシウム板などの板
- 増築部分の外壁のサイディングやモルタル
- 台所や廊下の床に張られた、ビニル床タイルや下地の接着剤
- 薪ストーブやボイラーの煙突、その周りの防火の板
- 浴室まわりの防水や、配管の保温材
母屋だけでなく、敷地の中の納屋や小屋も工事の対象に入るなら、調査の対象になります。
新潟の農家住宅は、敷地の中に作業小屋や車庫がいくつも建っていることが多いので、ここは見落とさないでください。
ちなみに、古民家の土壁そのものにアスベストが入っていることは基本的にありませんが、後から塗った仕上げ材に含まれていた例はあります。
見た目だけでは判断できないので、資格者に見てもらうしかありません。
調査と、見つかったときにかかる費用
ここからがお金の話です。
事前調査の費用
調査は、まず設計図書や過去の改修記録の確認、それから現地での目視、と進みます。
古民家は図面が残っていないことがほとんどなので、現地で一部屋ずつ見ていくことになります。
目視だけで含有の有無を判断できない建材は、一部を採取して分析機関に出します。
分析の費用は、東京都の資料で、アスベストがあるかどうかを調べる定性分析だけで1検体あたりおよそ3万〜6万円、含有率まで調べると4万〜10万円ほどが目安とされています。
古民家は、改修を重ねた分だけ建材の種類が多くなりがちです。
屋根、天井、床、外壁、小屋と、分析に出す検体が何か所にもなると、それだけで数十万円になることもあります。
見つかった場合の、除去や対策の費用
アスベストが見つかった場合の費用は、どの種類の建材か、どれくらいの面積か、どんな状態かで大きく変わります。
吹付けのアスベストや、配管の保温材など、飛び散りやすいもの(レベル1・2)は、作業場所を隔離して、負圧にして、専門の業者が除去します。
東京都の資料では、吹付けアスベストの除去は、処理する面積が300㎡未満の場合、1㎡あたり2万〜8.5万円が目安とされています。
古民家ではそれほど多くはありませんが、煙突やボイラーまわりで見つかることがあります。

スレートの屋根や天井板などの成形板(レベル3)は、割らずに手作業で取り外し、水で湿らせながら作業することが基本です。
レベル1ほどの大がかりな対策はいりませんが、普通に壊して捨てるのと比べると、手間も処分の費用もかかります。
広い屋根や、納屋の波形スレートがまとまってあると、それだけで百万円単位になることも珍しくありません。
お金だけでなく、時間もかかる
もう一つ見ておいてほしいのが、工期です。
分析の結果が出るまでに数日から数週間かかります。
見つかった場合は、除去の計画を立てて、必要な届出をして、除去の作業をして、それから本来の改修工事に入ります。
民泊の場合、開業の時期が遅れると、そのぶん売上の入りも遅れます。
夏の繁忙期に合わせて開業する予定で、春に着工してからアスベストが見つかり、結局オープンが秋にずれた、ということになると、事業計画そのものが崩れてしまいます。
なぜ、着工後の資金ショートが起きるのか
ご相談を受けていて、資金がきつくなるパターンはだいたい決まっています。
物件を安く買えたことで、気持ちが前のめりになる。
改修の見積もりは、内装、水まわり、消防設備など、目に見えるところを中心にとる。
融資もその見積もりの金額で申し込む。着工して、天井をはがしたり、屋根を見たりしたところで、アスベストの調査結果が出て、除去の費用が上乗せになる。
ここで困るのが、追加の資金です。
事業用の融資は、最初の計画に対して審査されています。着工後に「アスベストが出たので、あと数百万円貸してください」とお願いしても、すぐに追加で貸してもらえるとは限りません。
自己資金で埋めようとすると、開業のあとの運転資金や、家具・備品をそろえるお金が足りなくなります。
古民家の改修は、アスベストに限らず、柱の腐れ、シロアリ、雨漏りなど、はがしてみないと分からないことが多い工事です。
その中でもアスベストは、法律で対応の仕方が決まっていて、「見なかったことにして進める」ことができない費用です。
だからこそ、最初から予算に組み込んでおく必要があります。
物件を買う前に、やっておきたいこと
購入前に、建物を一度見てもらう
古民家を買う前に、資格者や建築士に建物を見てもらってください。

購入前の段階では、売主さんの許可なしに建材を削って分析に出すことはできません。
それでも、目視で「アスベストが含まれている可能性が高い建材がどこにどれくらいあるか」はある程度分かります。
屋根がスレートか瓦か、納屋の屋根や壁はどうか、台所や浴室の天井はどんな板か。
これだけでも、費用の見当がかなり変わってきます。
売主さんの了解がとれれば、購入前に分析まで済ませておくのが一番確実です。
「調査費」と「対策費」を、別の項目で予算に入れる
事業の予算には、アスベストの事前調査の費用と、見つかった場合の対策の費用を、それぞれ別の項目として入れておいてください。
対策の費用は、見つからなければ使わずに済むお金です。
でも、最初から計画に入れておけば、融資の申し込みのときにも、その分を含めて相談できます。
見つからなかった場合は、家具や備品、開業後の運転資金に回せばいいだけの話です。
古民家の改修では、アスベストとは別に、全体の改修費の1〜2割くらいは予備費として見ておくことをおすすめしています。
物件の価格交渉や、契約の条件に反映する
購入前の目視でアスベストの可能性が高い建材が多く見つかった場合は、その除去にかかる費用の見込みを、物件の価格の交渉材料にすることもできます。

売買の契約の前であれば、調査の結果によっては購入を見送る、といった判断もできます。
買ってしまってからでは、選べることが少なくなります。
工程表に、調査と分析の期間を入れておく
開業の時期から逆算して工程を組むときに、事前調査、分析、結果によっては除去、という期間を最初から入れておいてください。
特に、旅館業の許可や住宅宿泊事業の届出、消防の手続きと並行して進める場合は、どの工事がいつ終わるかが手続きの日程にも関わってきます。
補助制度を確認する
自治体によっては、吹付けアスベストの分析調査や除去に補助金を出しているところがあります。
対象になる建材や条件は自治体ごとにかなり違い、成形板は対象外というところも多いので、物件のある市町村の窓口で確認してください。
古民家の改修そのものや、空き家の活用に使える補助金と組み合わせられるかどうかも、あわせて確認しておくといいです。
安い見積もりには、気をつけてください
最後に一つだけ。
アスベストの事前調査の項目が入っていない見積もりや、「うちは調査しなくても大丈夫ですよ」と言う業者には、気をつけてください。

調査をせずに工事を進めることは法律違反で、罰則も設けられています。
それ以上に、アスベストが飛び散れば、工事をする職人さんだけでなく、近所の方や、これから泊まりに来るお客様の健康にも関わります。
民泊として営業を始めたあとで問題が出てきたら、事業そのものを続けられなくなるおそれもあります。
最初の見積もりが少し高く見えても、調査と対策の費用がきちんと入っているかどうかを確認してください。
清新ハウスでお手伝いできること
私は一般社団法人 新潟古民家再生協会の代表理事として、古民家の活用にも長く関わってきました。
清新ハウスでは、古民家の購入の段階から、民泊・宿泊施設としての改修、開業までをお手伝いしています。
- 購入前の建物チェックと、アスベストの可能性がある建材の確認
- 有資格者による事前調査、分析の手配
- 調査結果を踏まえた改修プランと見積もり
- アスベストの対策費・予備費を含めた資金計画の整理
- 旅館業・住宅宿泊事業・消防の手続きを見すえた工程の組み立て
- グループ会社の株式会社SATによる、民泊の運営管理のご相談
「この古民家、買っても大丈夫そうか見てほしい」という段階でのご相談がいちばん助かります。契約のあとより前のほうが、できることはずっと多いです。
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