「30年後、自分の家にはどれくらいの価値が残っているんだろう?」
家を建てた直後は、こんなことを真剣に考える人は少ない。
でも30年後子どもが独立して、自分たちも高齢になって、「この家をどうしようか」というタイミングが必ず来ます。
そのとき、「うちの家、ちゃんとメンテナンスしてきたのに安くしか売れなかった」という後悔を、私は何件も見てきました。
はっきり言います。
「ちゃんとやってきた」だけでは足りません。
「ちゃんとやってきたことを証明できる記録」がなければ、その価値は認めてもらえない。
実はこの度長期優良住宅の中古物件を仲介することになったので、その価値について考えてみました。
今回は、家の資産価値を守るために「建ててからの維持管理の記録」がなぜ重要なのか、そして何をどう記録しておけばいいのかを、建築士の立場から全部話します。

日本の中古住宅市場の「残念な現実」
まず、日本の住宅市場の現状ですが、日本では長年、「住宅は築年数で価値が決まる」という考え方が主流でした。
木造住宅は築20〜25年でほぼ評価額がゼロになるという、いわゆる「耐用年数による評価」が主流だったのです。
どれだけ丁寧にメンテナンスをして、内装をリフォームして、「ほぼ新築に近い状態」に保っていても、「築25年の木造」というラベルだけで評価額がほぼゼロ、これが実際に起きてきたことです。
これ、考えてみたらおかしい話ですよね。同じ築25年の家でも、一度もメンテナンスしていない家と、毎年点検してコツコツ修繕してきた家では、建物の状態が全然違うはずです。
でも従来の日本の市場では、その「実態の違い」が価格に反映されにくかった。
この状況が、少しずつ変わってきています。
変わりつつある市場。「履歴のある家は高く売れる」時代へ
国土交通省は「中古住宅の流通活性化」を政策の重要課題として位置づけており、「住宅の質を適切に評価して市場に反映させる仕組み」の整備を進めています。
その中心にあるのが「住宅履歴情報」という考え方です。
住宅履歴情報とは
設計・施工の記録(設計図書・確認申請書・検査済証)から始まり、入居後の定期点検記録・修繕履歴・リフォームの内容・使用した建材の仕様、これらを「いつ・何を・誰が・どのように行ったか」の記録としてデジタル・書面で蓄積していくものです。
「いえのカルテ」という仕組みも国土交通省が推進しており、こうした住宅の健康状態の記録を蓄積することで、将来の売買・相続・リフォームの際に「この家がどんな状態か」を第三者に証明できるようにすることが目標です。

「長期優良住宅」と「維持保全計画」
住宅の資産価値を守る制度として最もよく知られているのが「長期優良住宅」認定制度です。
長期優良住宅には、建築後も住宅維持保全の期間・方法を定め、計画的な点検・補修を行うことが求められています。
この「維持保全計画」は、認定取得のための書類上の手続きではありません。
実際に計画通りの点検・修繕を行い、その記録を残すことが義務付けられています。
維持管理を怠ると長期優良住宅の認定が取り消され、減税した税金や補助金の返還が求められるリスクがあります。
「長期優良住宅の認定を取得したまま、その後のメンテナンスをサボる」は、制度上許されていないのです。
一方で、維持保全計画に基づいて適切に管理されている住宅は、売却時にも一般的な住宅より高い価格を設定しやすくなります。
「管理されている証拠がある家」が市場で正当に評価される仕組みが、少しずつ整いつつあります。
また、中古住宅のリフォームにも同様の流れがあります。
長期優良住宅化リフォームでは、インスペクションの結果を基にリフォーム計画を作成し、リフォーム後も基準を満たした優良な状態を保つため、維持保全計画に基づいてメンテナンスを行い、メンテナンス内容は都度記録することが必要です。

「点検記録は将来の売却時に資産価値の証明となる」
施主への説明のポイントとして「定期的な点検により、不具合を早期発見し、大きな修繕費用を抑えられます。
また、点検記録は将来の売却時に資産価値の証明となります」という視点が重要です。
この一文が、今日の記事の核心を言い表しています。
点検を「コストだ」と感じる方がいます。
確かに、毎年来てもらって点検してもらうと費用がかかります。
でも、その積み重ねが「この家は適切に管理されてきた」という証明書になる。
将来この家を売るとき、相続するとき、子どもに引き継ぐとき「ちゃんとやってきた証拠」があるかどうかで、評価が大きく変わる時代になってきているのです。

何を記録すればいいのか。「住宅履歴」に残すべき内容
では実際に「何を残しておけばいいのか」を整理します。
① 建築時の基本書類(必ず確認・保管を)
残しておくべき書類
- 建築確認申請書・確認済証
- 検査済証(建物完成後に役所から発行される)
- 設計図書(平面図・立面図・構造図・仕様書)
- 住宅性能評価書(取得した場合)
- 長期優良住宅認定書(取得した場合)
これらは「家が正規の手続きを経て建てられた証明」です。
紛失すると後から取り直すのが大変なものもあります。
引き渡し時に受け取った書類は、必ずファイリングして保管してください。
② 定期点検の記録
毎年または数年おきに行う定期点検の記録です。
記録に含めておくべき内容
- 点検日・点検した会社・担当者名
- 点検した箇所(屋根・外壁・基礎・床下・水回りなど)
- 点検の結果(問題なし・要注意・要修繕など)
- 写真(問題が発見された箇所は特に重要)
- 次回点検の推奨時期
清新ハウスでは、毎年のオーナー様訪問の際に点検記録を作成し、オーナー様にお渡ししています。
この記録が何年分も積み重なることで「この家は継続的に管理されてきた」という証明になります。
③ 修繕・リフォームの記録
外壁塗装・屋根の修繕・水回り設備の交換・シロアリ処理、こうした修繕・リフォームを行った際の記録です。
記録に含めておくべき内容
- 工事を行った日時
- 工事の内容(何をどのように修繕したか)
- 使用した材料・製品名・メーカー
- 施工した会社名・担当者
- 費用
- 工事前後の写真
「10年前に外壁を塗り直した」という記憶だけでは不十分です。
「2016年4月、○○塗装工業にて外壁塗装(塗料:○○・色番号:○○、費用80万円)」という具体的な記録があってこそ、将来の購入者や評価者に伝わります。
④ 設備のメンテナンス記録
エアコン・給湯器・換気システム・太陽光発電設備など、家の設備のメンテナンス記録も重要です。
記録のポイント
- 設備の型番・メーカー・設置年月
- フィルター清掃・消耗品交換の記録
- 点検・修理の記録
給湯器の交換・換気システムのフィルター交換、これらの記録が残っていることで「設備もちゃんと管理されてきた家」として評価されます。
⑤ インスペクション(既存住宅状況調査)の記録
売却を検討する前の段階でインスペクション(建物診断)を行い、その結果を記録・保管しておくことも重要です。
「売ろうと思ったとき、あらかじめ自分の家の状態を診断してもらった記録」があることは、買い手への信頼性の高い情報提供になります。

「記録をつけることが苦手」という方へ。シンプルな記録術
「こんなに細かく記録できない…」という方のために、最低限でもやっておいてほしいことを絞ります。
最低限の記録術(これだけでも大きく違う)
① 工事・修繕のたびに「写真+領収書+業者名」を一か所に保管する
フォルダー(実物)でも、スマホのアルバム(デジタル)でも構いません。「いつ何をやったか」が後から分かるように、写真と領収書を一緒に保管する習慣だけつけてください。
② 点検を受けたときに、記録書をもらって保管する
点検業者に「記録書を出してほしい」とお願いするだけで、多くの業者は対応してくれます。これをもらって保管するだけでも、積み重ねれば立派な履歴になります。
③ 設備の取扱説明書・保証書は捨てない
給湯器・エアコン・換気システムなどの取扱説明書と保証書は、設備の型番・設置年月の証明になります。捨てずにまとめて保管してください。
※現在グーグルドライブなどのクラウドサービスがありますので、そこへ保存しておくことも有効です。
「維持管理の記録」が将来の売却でどう役に立つか
具体的に、記録がどう役立つかをイメージしてもらいます。
シナリオ:30年後に家を売るとき
記録なしの場合: 「築30年の木造住宅」として評価される。状態を証明できないため、買い手から「古いから値下げして」という交渉を受けやすい。インスペクションで問題が発見されるとさらに値引きを求められる。
記録ありの場合: 「築30年・長期優良住宅認定取得・毎年点検記録あり・10年前に外壁塗装・5年前に給湯器交換・3年前にインスペクション実施済み・問題なし」という記録が提示できる。買い手に「ちゃんと管理されてきた家」という安心感を与えられる。値引き交渉に対して根拠を持って「適切な管理をしてきた家なので価格は妥当です」と言える。
「記録があること」が、値引き交渉への防御力になるのです。

清新ハウスの「住宅点検と記録」への考え方
清新ハウスでは、引き渡し後も毎年オーナー様のお宅を訪問して点検(希望伺いながら)を行い、その記録をお渡ししています。
この「毎年の訪問と記録の積み重ね」が、私が言う「将来の資産価値を守る活動」の核心です。
「建てて終わり」じゃない。
引き渡しからが本当のお付き合いの始まりで、その積み重ねが30年後の家の価値を守ることになる、これを信じてやっています。
「清新ハウスで建てた家は、ちゃんと管理されてきた記録がある」、これが将来の売却時・相続時に、オーナー様の大きな強みになることを目指しています。
しかし、特に傷んでいるところや、困りごとが無いから今年は点検はしなくていいですと、希望されない方もおられます。
そんな方のお宅へ数年ぶりに点検で伺うと、結構問題が散見されることがあります。
あの時診てもらえば良かったと後悔することも。
こんな後悔も価値の低下を招く原因になる場合がありますので、出来る限り短時間でも良いので、毎年点検は行った方が良いと考えます。
まとめ
住宅履歴の記録と資産価値の関係について、覚えておいてほしいポイントです。
- 日本の住宅市場は「築年数だけで価値を決める時代」から「維持管理の実態を評価する時代」へ変わりつつある
- 長期優良住宅は「認定取得したら終わり」ではなく、維持保全計画に基づく継続的な点検・記録の義務がある
- 点検記録は「将来の売却時に資産価値の証明」になる
- 記録すべき内容は「建築時の基本書類・定期点検記録・修繕リフォーム記録・設備メンテ記録・インスペクション記録」の5つ
- 最低限でも「工事のたびに写真+領収書+業者名」を一か所に保管する習慣をつける
- 記録が「値引き交渉への防御力」になる
- 「建てて終わり」ではなく「建ててからの積み重ね」が30年後の家の価値を決める
「30年後に後悔しないために、今日から記録を始める」その最初の一歩のきっかけになってもらえたら嬉しいです。
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