
最近のニュースや住宅検討で耳にする「建築基準法の改正」。
実は、これまで木造2階建て住宅で認められていた構造確認の省略(4号特例)が大きく変わり、より厳格な耐震チェックが義務化されました。
これによって何が変わったのか?
施主様にとっての「大きな安心のメリット」と、知っておくべきスケジュールへの影響をわかりやすく紐解きます。
そもそも「4号特例」とは何だったのか
まず、この法改正の背景を正しく理解するために、「4号特例」という制度の歴史から振り返ります。
建築基準法では、建物を規模や構造によって「1号・2号・3号・4号」の4つに分類しています。
従来の「4号建築物」とは、木造2階建て以下で延床面積500㎡以下かつ高さ13m・軒高9m以下の建物などが該当しており、一般的な戸建て住宅のほとんどがこれに含まれていました。
「4号特例」とは、この4号建築物について、建築確認申請の際に「構造関係図書(壁量計算、基礎の断面・配筋図など)の提出を省略できる」という特例制度のことです。
1983年の創設以来、約40年にわたって維持されてきたこの制度は、日本全国で建てられる戸建て住宅の大半に適用されてきました。
なぜ長年この特例が許されていたのか
当時は建築士の資格が普及しておらず、木造住宅の設計・施工の複雑さを考慮すると、すべての小規模建物に構造計算書の提出を義務づけることは実務的に難しいという判断がありました。
また、木造住宅には告示に定められた「仕様規定」(耐力壁の量や配置に関する基準)があり、それを守れば一定の安全性が確保できるという前提がありました。

なぜ2025年に廃止・縮小されたのか。背景にある「問題の正体」
4号特例は、長年にわたって実態として大きな問題を抱えていました。
問題①:確認されない=守られない構造基準
4号特例によって構造図書の提出が省略されてきたということは、裏を返せば「提出していないから、実際に基準を守っているかどうかが審査機関に確認されない」という状態が続いてきたということです。
実態として、一部の建物では壁量計算が正しく行われていなかったり、耐力壁の配置バランスが偏っていたりするケースが報告されてきました。
問題②:大地震のたびに繰り返される木造住宅の被害
1995年の阪神・淡路大震災、2016年の熊本地震、2024年の能登半島地震、大規模地震のたびに、木造住宅(特に2000年以前の建物)の被害が大きくなる事実が繰り返し明らかになってきました。
耐震基準は2000年に大幅強化されましたが、その後も「基準を満たしているはずの木造2階建て」に構造的な問題があるケースがゼロではありませんでした。
提出義務のない構造計算が「実際には行われていない」建物が一定数存在するという問題意識が高まっていたのです。
問題③:省エネ基準の義務化との整合性
2025年4月には省エネ基準への適合義務化も同時に施行されました。
省エネ性能の図書は提出義務があるのに、構造の図書は提出義務がない。
この矛盾を解消するためにも、4号特例の見直しは不可避の流れでした。
2025年4月から何が変わったか。具体的な制度変更
2025年4月の建築基準法改正により、これまで4号建築物として一部の確認申請を省略できていた木造2階建て住宅は「新2号建築物」に分類され、確認申請時に構造や省エネに関連する図書を提出することが義務となりました。
改正後の建築物の分類
| 新分類 |
対象建物 |
改正前からの変化 |
| 新2号建築物 |
木造2階建て以上のすべての住宅、延床面積200㎡以上の木造平屋 |
構造図書の提出義務が新設(構造計算、省エネ関係図書の提出が必要) |
| 新3号建築物 |
延床面積200㎡以下の木造平屋 |
従来の4号特例と同様の審査省略が引き続き可能 |
つまり、一般的な木造2階建て戸建て住宅は、ほぼすべてが「新2号建築物」に該当し、これまで省略されてきた構造関係の確認図書の提出が義務化されました。
提出が義務化された主な図書
新2号建築物は、確認申請書・図書に加えて、構造関係規定等の図書と省エネ関連の図書が必要になりました。
主な追加必要書類として、壁量計算書、基礎の断面計画・配筋計画図、柱・梁の断面計算書、接合部・横架材の確認図書などが挙げられます。

施主にとってのメリット:「見えない安全」が「見える安全」になった
法改正はコストや期間面での影響があることは事実です。
しかし、施主の立場から見れば、この改正は「大きな安心をもたらす変化」として捉えることができます。
メリット①:建物の構造が「客観的に確認・証明された」状態になる
4号特例が適用されていた時代の木造住宅は、「設計した建築士が計算した結果、大丈夫だったはず」という状態でした。
提出義務がなかったため、行政や審査機関による第三者チェックが働いていませんでした。
新制度のもとでは、構造関係図書が審査機関に提出・確認されるため、「この家は第三者機関によって構造安全性が確認された」という客観的な証明が残ります。
メリット②:大地震の際の倒壊リスクが客観的に下がる
構造図書の提出義務化によって、設計段階での「壁量の過不足」「耐力壁のバランスの悪さ」「柱・梁の断面不足」などの見落としが減ります。
能登半島地震・熊本地震の調査では、旧基準・不十分な設計の建物に被害が集中したことが明らかになっています。
メリット③:将来の売却・相続でも「証明できる家」になる
構造図書が確認申請に含まれて保管されることで、将来この家を売却する際や相続する際に「構造的に問題のない家であることが行政の記録に残っている」という証明力が生まれます。
これは先ほどの「資産になる家づくり」という記事でお伝えした考え方とも直結します。
施主が知っておくべきコスト・スケジュールへの影響
正直に言えば、4号特例の縮小によって、建築コストと設計・確認申請期間に一定の影響が出ています。
コスト面の影響
構造関係図書の作成にかかる業務が増加するため、住宅会社・設計事務所の設計費用・確認申請費用が上昇しています。
一般的には、従来比で数万円〜数十万円程度の増加が見込まれますが、住宅会社によって対応コストの見込み方は異なります。
また、構造計算の結果として必要と判明した補強(接合金物の追加・壁量の増加など)が発生する場合は、追加の材料費・工事費がかかることもあります。
スケジュール面の影響
構造関係図書の作成・審査に時間がかかるため、確認申請の審査期間が従来より長くなる可能性があります。
2025年以降の確認申請は、審査機関の処理能力によって標準的な処理期間が延びるケースが報告されています。
具体的な影響としては、着工までのスケジュールに1〜2ヶ月程度の余裕を多めに見ておく必要があります。
特に年度末・年度初めなどの申請が集中する時期は、さらに時間がかかるケースもあります。

「費用が上がった」はネガティブではない。正しい捉え方
住宅会社の立場から、施主の方に正直にお伝えしたいことがあります。
「4号特例が縮小されたことで、建築コストが少し上がりました」という話を聞いたとき、「なんで高くなるの?」とネガティブに感じてしまうかもしれません。
しかし、考え方を変えてみてください。
これまでの4号特例の時代とは、「構造計算をしなくてよいと言われているから、厳密にやらなくても行政には分からない」という状態が、一部の不誠実な施工者に悪用される余地があった時代でもありました(もちろん多くの真面目な会社はしっかりやっていましたが)。
新制度のもとでは、構造図書の作成・提出・審査機関によるチェックが義務化されます。
これは「手間とコストが増えた」のではなく、「本来やるべきことを、全員がきちんとやることが求められるようになった」という変化です。
その費用は、「より安全な家を手に入れるための正当な対価」と捉えていただければ、自然に納得いただけるはずです。
大規模リフォームも対象に。見落とされがちな注意点
新築住宅だけでなく大規模なリフォームの際も同様に確認申請が必要となるため注意が必要です。
具体的には、主要構造部(壁・柱・床・はり・屋根・階段)の1/2超を修繕・模様替えする「大規模の修繕・大規模の模様替え」に該当するリフォームでは、確認申請と構造関係図書の提出が求められます。
「既存の家を大きくリフォームしたい」と考えている方は、計画段階で建築士や施工会社に「確認申請が必要かどうか」を必ず確認してください。
申請が必要なのにそのまま工事を進めると、違法建築となるリスクがあります。

木造住宅の耐震性能の「現在地」と「目指すべき水準」
4号特例の縮小と合わせて、木造住宅の耐震性能についても正確に理解しておきましょう。
耐震等級の考え方
現在の建築基準法が定める耐震性能は「耐震等級1」が最低基準で、「震度6強〜7の地震で倒壊しない」レベルです。
しかし、2016年の熊本地震では、耐震等級1の建物でも深刻な被害が出たケースが報告されました。
そのため、より高い耐震性能として「耐震等級2(等級1の1.25倍)」「耐震等級3(等級1の1.5倍)」を取得することが推奨されています。
等級3は「消防署・警察署と同等の耐震性能」
耐震等級3は、震災後も机能を維持する必要がある消防署・警察署と同等の耐震性能とされています。
熊本地震の実績データでは、耐震等級3の建物の被害は最も少なかったことが確認されており、「最高水準の安心」を求める方に向いた選択肢です。
4号特例の縮小で「構造を確認する仕組み」は整いましたが、「どのレベルの構造を目指すか」は依然として施主自身が選択する問題です。
最低基準(耐震等級1)を満たすだけでなく、より高い等級を目指すかどうかを、設計者と相談しながら決めてください。
【事例】法改正前後で設計・確認申請期間がどう変わったか
清新ハウスでの実際の経験をお伝えします。
改正前(2024年まで)の標準的な流れ
設計完了→確認申請提出→審査・許可(1〜2週間程度)→着工
改正後(2025年4月以降)の標準的な流れ
設計完了→構造関係図書の作成(1〜3週間の追加期間)→確認申請提出→審査・許可(審査期間が従来比1〜2週間程度延長)→着工
結果として、着工までのトータルスケジュールが概ね1ヶ月〜2ヶ月程度長くなっています。
この「待ち時間」の使い方も重要です。
構造図書の内容を確認・理解する時間として活用することで、「この家がどういう構造で建てられているか」を施主自身が把握する貴重な機会になります。

清新ハウスが大切にする構造への姿勢
清新ハウスでは、4号特例の時代においても、壁量計算・基礎の設計・接合金物の確認は標準業務として実施してきました。
今回の法改正は、私たちにとって「従来からやってきたことが公式に義務化された」という位置づけです。
しかし、「義務だからやる」という姿勢ではなく、「新潟で暮らす家族が大地震に遭遇したとき、命と住まいを守れる家を建てるために、構造設計に誠実に向き合う」という姿勢は、これからも変わりません。
コストや期間が少し増えても、その分だけ確実に安全性が高まる、そういう家づくりを、一緒に進めていきましょう。
まとめ
4号特例の縮小と木造住宅の構造安全性について、覚えておいてほしいポイントを整理します。
- 4号特例とは、木造2階建て以下などの小規模建物で、確認申請の構造図書提出を省略できた制度(1983年〜2025年)
- 2025年4月の建築基準法改正で、木造2階建て住宅は「新2号建築物」に分類され、構造関係図書の提出が義務化された
- 大規模リフォームにも同様の変更が適用されるため注意が必要
- 施主へのメリットは「構造安全性の第三者による客観的な確認・証明」「地震リスクの低減」「将来の資産価値の維持」
- 着工までのスケジュールは従来比1〜2ヶ月程度長くなることを見込んでおく
- 法改正は「最低限のコスト増」ではなく「本来やるべきことを全員がきちんとやるようになった変化」として前向きに捉える
- 耐震等級1(最低基準)ではなく、等級2・3を目指すかどうかは施主自身が選択できる
家づくりのコストや期間が増える部分については、「なぜ増えるのか」を正しく理解することで、前向きな投資として受け入れていただけると信じています。
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