
2024年の能登半島地震をはじめ、日本列島では規模の大きな地震がたびたび発生しています。
今日は私の得意分野である『古民家』について書きます。
これから住まいづくりや古民家の購入、あるいは現在お持ちの古民家の再生を考える上で、「地震に対する強さ」は誰もが最も気にされるポイントだと思います。
「築年数の古い家は地震に弱いのでは?」と心配される方も多いかもしれません。
しかし、日本の伝統的な家屋である「古民家」は、現代の住宅とは全く異なるアプローチで地震と向き合ってきました。
現代建築の主流である「固める」工法と、古民家にみられる伝統構法の「逃がす」工法(柔構造)の違いについて分かりやすく解説します。
1. 現代工法:地震の力を耐え抜く「剛構造」

現代の木造住宅で主流となっているのは、「在来工法(木造軸組工法)」や「ツーバイフォー工法」です。
これらは建築基準法に基づき、地震の揺れに対して建物をガチガチに「固める」ことで抵抗する「剛構造(ごうこうぞう)」の考え方を採用しています。
具体的には、鉄筋コンクリートの基礎と木の柱をアンカーボルトで強固に連結し、柱と梁などの接合部には金属のボルトや専用の金物を多用します。
さらに、筋交い(すじかい)と呼ばれる斜めの材や構造用合板を用いて、壁全体を一つの硬い箱のように固めます。
この工法のメリットは、小さな揺れや台風の風では建物がほとんど変形せず、室内の揺れも感じにくいことです。
しかし、建物を地面と完全に固定して固く作っているため、地震の巨大なエネルギーを建物全体で直接受け止めることになります。
そのため、建物の強度の限界を超えるような想定外の大地震が発生した場合、一気に構造体が破壊されるリスクもはらんでいます。
2. 伝統構法:地震の力を受け流す「柔構造」

一方、古民家に代表される「伝統構法」は、地震のエネルギーを「受け流す・逃がす」という全く異なるアプローチをとっています。
これを「柔構造(じゅうこうぞう)」と呼びます。
最大の特徴は「石場建て(いしばだて)」と呼ばれる基礎の作り方です。
コンクリートの基礎にボルトで固定するのではなく、基礎石の上に柱を乗せているだけなのです。
大きな揺れが来ると、柱が石の上をわずかに滑ったり浮いたりすることで、地面の激しい揺れを建物に直接伝えない「天然の免震効果」を発揮します。
また、骨組みの接合部には釘や金物を極力使わず、木材同士を複雑な形状で組み合わせる「継手(つぎて)」や「仕口(しぐち)」という高度な技術が使われています。
揺れに対して木材同士がめり込んだり摩擦を起こしたりすることで、地震のエネルギーを吸収・消費します。
さらに、竹小舞を下地にした「土壁」も重要です。
土壁は大きく揺れるとヒビが入ったり土が落ちたりしますが、この「壊れる」プロセス自体がエネルギーを吸収し、建物の全壊を防ぐためのヒューズの役割を果たしているのです。
柳の枝が風を受け流すように、建物全体がしなやかに変形して倒壊を免れる、それが伝統構法の凄みです。
3. 国が推進する伝統的建造物の活用と「限界耐力計算」

「伝統構法は素晴らしいけれど、現在の法律(建築基準法)に合っていないのでは?」という疑問をお持ちの方もいるでしょう。
確かに、昭和中期の法改正以降、建物をガチガチに固める工法が基準化されたため、伝統的な石場建てなどで新築することは非常にハードルが高くなりました。
しかし近年、歴史的価値のある古民家の急激な減少や、地域資源の活用という観点から、国(国土交通省や文化庁)も伝統的建造物の保存・活用に向けた指針を段階的に打ち出しています。
現在では、「限界耐力計算」という高度な構造計算手法を用いることで、伝統構法特有の「しなやかさ(変形能力)」を数値化し、大地震時の安全性を科学的に証明することが可能になっています。
これにより、伝統的な美しさや柔構造のメリットを活かしながら、現代の耐震基準を満たす形での古民家再生・改修が現実的な選択肢として広まっています。
伝統的な知恵と現代の最先端の構造解析技術の融合が、現在の古民家再生の大きなトレンドとなっています。

「固める」ことで地震に抗う現代工法と、「逃がす」ことで地震と共存する伝統構法。
どちらが絶対に優れているというものではなく、それぞれに考え方と役割があります。
しかし、何百年もの間、地震大国日本で生き残ってきた古民家の「柔構造」には、現代の私たちが学ぶべき自然の理にかなった知恵が詰まっています。
こうした先人たちの技術や思想を正しく受け継ぎ、限界耐力計算などの現代の技術を用いて安全性を確保しながら、現代のライフスタイルに合わせた最適なリノベーションを私は得意としています。
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