先日、こんな相談がありました。
義理のお母様が余命数か月で入院中。
空き家になっている自宅を、まだ本人が生きているうちに何とかしたいという。
相談に来られたのは義理の息子さんで、「義母が動けるうちに、せめて家の問題だけは片付けてあげたい」という思いでした。
最初に正直に言います。
この相談、私もどうにもできませんでした。
「できませんでした」というより、今の時点では動けないという方が正確で、解決策がまったくないわけでもないんですが、現実として「すぐには何もできない」という結論になりました。
こういう相談は、きれいな解決策を提示できないまま終わることがあります。
それでもブログに書くのは、同じような状況にいる方がどれほど多いか、そしてこれを読んで「自分だけじゃない」「早めに動かないといけない」と思ってほしいからです。

状況の整理
相談のあった物件は、新潟市内にある空き家です。
義母が入院してからずっと空き家の状態で、維持管理もなかなかできていない。
建物は古く、傷みも進んでいる。
不動産業者に一度相談したことがあって、「引き取るなら200万円もらわないと困る」という評価だったと言っていました。
要は「もらって管理してあげるとしたら、むしろ費用がかかる物件」という評価です。
資産価値としてはマイナス。
義理の息子さんは「1円でもいいから仲介して売ってほしい」という要望でした。
「お金はもらわなくていい、ただどこかに引き取ってもらえれば、義母が安心して逝けると思う」と言っていた。
その気持ちは、話していて痛いほど伝わりました。
「どうにかなりませんか」と言われたとき、正直すぐに「難しい」という言葉が出ました。
調べて分かった問題。建物が未登記だった
相談を受けて、物件の状況を詳しく調べてみました。
土地は登記されていました。
名義も義母本人のもので、相続の問題もとりあえずない状態。
ここまでは問題なかった。
でも建物を調べたら、未登記でした。
建物の未登記というのは、簡単に言うと「法務局に建物の存在が記録されていない状態」です。
売買の際、建物を取引するためには原則として建物の登記(表題登記)が必要です。
なぜ未登記になっているか。
よくある理由は
「建てたとき、お金がなくて登記の手続きをしなかった」
「昔はそこまで厳密でなかった」
というケースが多いです。
今回もおそらくそのパターンで、何十年もそのまま来てしまった。
未登記建物のままでは、正式な不動産取引ができません。
「1円で売る」にしても、建物の表題登記を先にやらないといけない。
表題登記は土地家屋調査士に依頼する仕事です。
費用はおおむね8万〜15万円程度。安くない。
「それを先にやれれば話が進むんですが」と説明したら、「その費用が出ません」という答えが返ってきました。
年金暮らしで、余裕がない。
入院費もかかっている。
「表題登記のための10万円すら厳しい」という現実でした。

「どうすることもできない」というもどかしさ
正直に書きます。
この段階で、私にできることはほとんどありませんでした。
「表題登記を済ませてから連絡ください」とは言えます。
でも、その費用が出ないという現実がある。
「では費用が出るまで待ちましょう」と言うと、義母の残り時間との戦いになる。
何か補助金や助成金が使えないか調べました。
老朽危険空き家の解体補助金というのは新潟市にありますが、解体が前提で、かつ申請に時間がかかる。
今すぐ売りたいというニーズとは合わない。
建物を「引き渡しの条件で解体費を負担する」形で売買できないかとも考えました。
ただし未登記建物の場合、「建物を解体してから土地だけ売る」という方法なら未登記でも対応できる場合があります.
ただしこれも解体費用が発生するし、現地を見ないと詳細は言えない。
解体にかかる費用が200万〜300万円程度とすると、「その費用を土地の売却代金から賄えるか」という計算になります。
でも土地の価値が低い場所だと、解体費を払ったら手元にほとんど残らない。
マイナスになる場合もある。
「どれも今すぐには動けない」という状況でした。
義理の息子さんは「分かりました」と言って帰りました。
でもその表情は、すごく重たかった。
「やっぱりそうか」という顔をしていた。
相談に来て、解決策を持ち帰れなかった。
私もその重さは残りました。
この相談で感じたこと
「早く相談に来てくれていれば」という言葉は、こういう場面で安易に使うべきではないと思っています。
「早く相談しなかったあなたが悪い」みたいに聞こえるから。
でも現実として、義母が元気なうちに一度でも「家をどうするか」という話を家族でしていれば、選択肢はもっとあったかもしれない。
建物の登記が済んでいれば動けた。
少しでも余裕があるうちに動いていれば、焦らずに済んだ。
「そのうちやろう」が「できない状態になってからやろうとした」に変わる瞬間があります。
この方のケースはそれが重なってしまった。
空き家アドバイザーとしてたくさんの相談を受けてきましたが、「知識があれば解決できる問題」と「お金と時間があれば解決できる問題」は違います。
今回は後者で、でもそのどちらもなかった。
「どうしようもない」という言葉をここで使うことに少し抵抗があるんですが、現時点ではそれに近い状況です。

義理の息子さんが感じているであろうこと
今回相談に来たのは義理の息子さんです。
法律上、義母の財産について動ける立場ではない部分もある。
義母本人がまだ契約行為ができる状態だから、ギリギリ相談できる段階でした。
もし義母が意思疎通できなくなってから相談に来ていたら、もっと動けなかった。
「義母が生きているうちに何とかしてあげたい」という気持ちは本当のことだと思います。
義母の安心のためだけでなく、自分の息子(孫の世代)にこの問題を引き継がせたくないという思いもあったと話していました。
「自分の代でどうにかしたかった」のにできない。
その申し訳なさや無力感は、話していてじわっと伝わってきました。
不動産の問題は「誰かの気持ち」だけでは動かない。
お金と法律と時間が絡む。
正直なところ、こういう相談が一番きつい。
「何かできることありますか」と来て、「今すぐできることはあまりない」と言わないといけない場面。
今後の可能性「できないことはない」けれど
「今すぐは無理」と「永遠に無理」は違います。
今後の流れとして考えられることを整理すると、義母が亡くなった後の相続のタイミングで動く。
相続が発生したとき、表題登記(建物の登記)と相続登記(名義変更)を同時に進める方法があります。
費用はかかりますが、「どうせ相続で動かないといけない」なら、そのときにまとめて対応する方が結果的に効率的です。
義理の息子さんの子ども(孫世代)が相続することが決まっているなら、その段階で「どう処理するか」を決めれば済む話ではある。
「負担を引き継がせる」ことになるけれど、引き継ぐときに選択肢がなくなっていなければいい。
解体して更地にする方向を検討する
建物が未登記のまま解体することは可能です(未登記建物は解体後に「未登記建物滅失」の届出だけで済む場合がある)。
更地にしてから土地だけを売却する方が、買い手はつきやすくなる場合があります。
ただし解体費用が必要で、それを誰が負担するかという問題は残ります。
新潟市の補助金・支援制度を活用する
新潟市の老朽危険空き家解体費補助金は、条件が合えば解体費用の一部を補助してもらえます。
ただし申請から工事完了まで時間がかかるため、「今すぐ」というニーズには合わない。
もし今後時間的余裕ができた段階で、補助金申請を検討する価値はあります。

同じ状況にある方へ
同じような状況は「どうにかしたいのにお金も時間もない」という空き家の問題を抱えている方が、おそらくたくさんいます。
今回の相談を聞いて、私が「ここは早めに動いてほしかった」と思ったポイントを整理します。
建物の登記状況を確認する:自分の実家・親の家が登記されているかどうか、まず調べる。未登記なら、元気なうちに表題登記を済ませておく方が後が楽になります。費用は8万〜15万円程度。
親が元気なうちに「家をどうするか」を話す:「縁起でもない」という空気があるのは分かる。でも具体的に決めなくていい。「将来的にこういう方向で考えている」という意思の確認だけでもしておくと、いざというときに動きやすくなります。
固定資産税の通知書を確認しておく:固定資産税の通知書には土地の地番・建物の情報が記載されています。これを手元に置いておくだけで、相談するときに話が早くなります。
「今は余裕があるから大丈夫」という状態が続かないことを知っておく:人の状態は突然変わります。元気だった親が急に入院する。判断能力がなくなる。そうなってから動こうとすると、できることが一気に減ります。
今回の相談で、私が言えたのは「今の段階ではすぐには動けない。でも可能性はある。整理しながら待ちましょう」という話だけでした。
正解があったかどうか、自分でも分からない。
でも少なくとも「こういう状況がある」ということを知ってほしいと思って、書きました。
「ウチは大丈夫」と思っている方、一度実家の登記状況だけでも調べてみてください。
まずはそれだけでも良いです。
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