新潟県糸魚川市の山あいに、ひとつの集落をまるごと貸し出す宿が誕生したというニュースが話題になっています。
「一棟貸し」ではなく「一村貸し」。
聞いたことのない言葉に驚いた方も多いのではないでしょうか。
空き家問題に取り組む立場として、この取り組みは単なる珍しい宿泊サービスではなく、限界集落・空き家問題の本質を突いた、新しい利活用のヒントが詰まった事例だと感じています。
今回はこの「一村貸し」を取り上げながら、空き家の利活用について考えてみたいと思います。

「一村貸し」とは何か
舞台となるのは、糸魚川市の市街地から20km、標高400mほどの山間にある小さな集落「市野々(いちのの)」です。
通年で住んでいるのはわずか1世帯2人。
ピーク時には40世帯が暮らしていたこの集落は、1975年ごろを境に人口が減り続け、現在は「限界集落」。
65歳以上の人口が50%以上を占め、集落としての機能維持が限界に達している状態となっています。
この集落で8年ほど空き家になっていた築200年以上の古民家を改修し、宿屋「堂道(どうみち)」としてオープンさせたのが、地域おこし協力隊として糸魚川市に移住した永田伊吹さん(30)です。
永田さんが手がけた「一村貸し」は、単に古民家に泊まるだけのサービスではありません。
集落全体を舞台にした体験型の宿泊プランです。
宿泊客は、山菜採りや火おこし、湧き水をくみに行くといった、市野々の暮らしそのものを体験できます。
地元の食材を使った食事、そして「伝承人」と呼ばれる専用コンシェルジュが付き、田植え・スイカ割り・雪遊びなど四季折々の体験も提供されています。
価格は1人2万円ほど。集落をまるごと貸し切る体験にしては驚くほど手の届く価格設定です。

なぜ「安く」提供できるのか。発想の転換がここにある
ここに、この取り組みの本質があります。
永田さんはこう語っています。
「一村貸しをモデルとして、静かに終わりを迎える限界集落がたくさんあると思うが、逆手に取って、歴史や文化を外部の人につないでいきたい」。
つまり、「人が減り、終わりに向かっている集落」という一般的にはネガティブに捉えられる状況そのものを、サービスの価値に変換しているのです。
過疎化・空き家・限界集落というキーワードは、通常「問題」として語られます。
しかし永田さんの取り組みは、その「終わりゆく集落」をそのまま観光資源・教育的価値として提示しました。
都会では決して体験できない「限界集落のリアルな暮らし」こそが、このサービスの最大の価値になっています。
8年間空き家だった古民家も、当時の建物の良さを残しながら床を張り替えるなど、半年かけて改修を進めたといいます。
天井板をはがして梁を見える状態にするなど、古民家本来の魅力を引き出す改修を行っており、「直して新しくする」のではなく「もともとあった価値を可視化する」というアプローチが取られています。

集落の住民が「協力したい」と語る理由
この取り組みを語る上で欠かせないのが、80年前からこの集落に住む齊藤義昭さん(85)の存在です。
齊藤さんは自宅近くの畑を耕し自給自足で食料を調達し、豪雪地帯での雪かきも自ら行うなど、いまだ元気に暮らしています。
かつて40戸ほどあったこの集落が、今や夫婦2人だけの暮らしになった現実を、長年見続けてきました。
齊藤さんはこう語っています。
「1年でも長く大字市野々集落をなくしたくない気持ちで協力したい」。
これは空き家・限界集落問題を考えるうえで非常に重要な視点です。
空き家の利活用は、単に「建物を再生する」だけの話ではなく、そこに残る住民の思いや、地域の歴史・文化をどう次世代につなぐかという問題でもあります。
「集落を見守り続けたい」という齊藤さんの思いと、「文化や景色を残していきたい」という永田さんの取り組みが結びついたことで、この一村貸しは単なる宿泊ビジネスを超えた、地域の記憶を継承する仕組みになっています。
空き家再生は地域再生においては、このソフト部分が一番先に来て、最も重要だと考えます。
この記事を見て感動しました。

空き家課題解決の現場から見える、この事例の意義
私たちが日々、新潟で空き家対策・空き家の利活用支援に取り組む中で感じるのは、空き家問題の本質は「建物の老朽化」だけではなく、「そこにある暮らし・歴史・人とのつながりが消えていくこと」だという点です。
一村貸しの事例は、以下の3つの点で空き家利活用のヒントになります。
① 「弱み」を発想の起点にする
限界集落・人口減少という、一般的には解決すべき課題とされるものを、そのままコンセプトの核に据えています。
「終わっていく場所」だからこそ価値がある、という逆転の発想です。
② 古民家の「もともとの価値」を活かす
リノベーションといっても、すべてを新しくするのではなく、かやぶき屋根や囲炉裏、梁といった古民家特有の魅力を残す改修を行っています。
空き家利活用において「何を残し、何を変えるか」の判断は非常に重要です。
③ 地域の住民を「主役」にする
齊藤さんのような長年の住民の協力があってこそ、このサービスは成り立っています。
空き家の利活用は所有者・事業者だけで完結するものではなく、地域コミュニティとの連携が成功の鍵になります。
地元の協力者の存在は絶対です。

新潟の空き家所有者の方へ
「うちの実家も古い空き家だけど、何かに使えるだろうか」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
一村貸しのように大きな事業展開でなくても、空き家の利活用には様々な選択肢があります。
- 古民家を活かした宿泊・体験施設としての活用
- 地域の交流拠点・コワーキングスペースとしての利活用
- 空き家バンクへの登録による移住希望者とのマッチング
- 賃貸・シェアハウスとしての再生
物件の状態・立地・地域の特性によって最適な活用方法は異なります。
「もう古くて使えない」と感じている空き家にも、視点を変えれば思いがけない価値が眠っているかもしれません。

まとめ
新潟県糸魚川市の「一村貸し」は、限界集落・空き家という社会課題を、地域の文化と歴史をつなぐ新しいサービスへと変換した事例です。
- 「終わりゆく集落」という弱みを、そのまま体験価値に変えた発想の転換
- 古民家の本来の魅力を活かした改修アプローチ
- 地域住民の思いと事業者の取り組みが結びついた継承の仕組み
空き家・限界集落という課題は、新潟県内の多くの地域にも共通する問題です。
この事例から学べることは多く、私たちも空き家課題解決の支援を通じて、こうした地域の可能性を一緒に考えていきたいと思います。
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